肛門近くのがんは必ず人工肛門になるの?/大腸がんの常識・非常識

40歳過ぎから発症率が高まる大腸がん。いろいろな噂が飛び交って、中には事実とは事実と違う情報もあるようです。そこで、大腸がんの第一人者である玉川病院外科部長、東京医科歯科大学特命教授、安野正道先生に「誤解しやすい情報」について教えてもらいました。

肛門近くのがんは必ず人工肛門になるの?/大腸がんの常識・非常識 pixta_23096431_S.jpg【質問】肛門近くにがんができた場合は必ず人工肛門になる?

 

【答え】ケースバイケースです。人工肛門の方が手術後の生活が快適になることもあります

大腸がんが進行した場合、がんがある部分を含む腸管の切除と、リンパ節を切除するリンパ節郭清を行います。直腸がんの場合、排便をコントロールする肛門を残す手術と、肛門まで切除して人工肛門(ストーマ)を造設する手術の二つに分けられます。患者さんにとって自分の肛門を残したいという気持ちは大きいものですが、無理に自分の肛門を残しても、切除部分が大きく肛門としての機能が十分でない場合は、便が漏れるなど生活の質を下げることがあります。

肛門を残す手術は「括約筋温存手術(前方切除術)」といいます。これは肛門を残し、がんが発生した病変部分の直腸を切除するもので、この手術は肛門機能が十分に残ると見込まれる場合に行います。

肛門の近くにがんがある場合には肛門も含めて切除を行う直腸切断術(マイルズ手術)を行います。この手術では腸をつなぐことはなく。大腸の末端は人工肛門として左下腹部に、肛門の代わりになる便の出口としての人工肛門を作ります。人工肛門には、便をためておく袋(パウチ)を取り付けて、定期的にパウチから便を出すことで排便を管理できます。人工肛門は基本的には日常生活の制限は少なく、手術前とほぼ同じような生活を送ることも可能です。

【マイルズ手術】
肛門近くのがんは必ず人工肛門になるの?/大腸がんの常識・非常識 1907p050_1.jpg

人工肛門になった患者が、退院後も快適に過ごす手助けとなるのが「ストーマ外来」です。認定資格を持った医師や看護師が、豊富な知識と経験でさまざまな相談に乗ってくれます。直腸がんの手術後には、排便・排尿機能に関する不具合が生じる可能性がありますが、焦らずに半年から1年かけて改善するのを待ちましょう。

直腸以外の大腸がんの手術後は、基本的には運動や食事に特別な制限はありません。医師に相談しながら適度に体を動かしましょう。食物繊維や乳酸菌が豊富な野菜中心の食事を心がけ、ゆっくり、よくかんで、腹八分目を心がけましょう。

特集:「大腸がんの常識・非常識」の記事リストはこちら!

取材・文/宇山恵子

 

<教えてくれた人>

安野正道(やすの・まさみち)先生

玉川病院外科部長、東京医科歯科大学特命教授。 正確かつ迅速な診断と、適切な治療がモットー。

この記事は『毎日が発見』2019年7月号に掲載の情報です。

この記事に関連する「健康」のキーワード

PAGE TOP