知っていますか?研究の報告が相次ぐ「自然がもたらす健康効果」/鎌田實

雑誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」から、今回は鎌田さんが「豊かな自然の中で、心と体のバランスを整えよう」と語りかけます。

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縄文人の声を感じる雑木林

仕事で行き詰まったり、精神的に疲れたりしたとき、ぼくは長野県茅野(ちの)市内にある尖石(とがりいし)縄文考古館の裏にある、美しい雑木林によく行きます。

この林の入り口には、清らかな湧き水があり、春には水芭蕉が咲き誇ります。木々は季節ごとの表情を見せてくれますが、夏の季節は、鮮やかな緑と心地よい木陰が魅力。フィトンチッッド(※樹木などが発する香りなどの化学物質のこと)やマイナスイオンで、さわやかな気分になります。

この辺りには縄文時代中期の集落遺跡があり、竪穴式住居が200カ所以上も見つかっています。近くの遺跡からは、国宝の「縄文のビーナス」や「仮面の女神」なども出土しました。

かつて豊かな文化が広がっていたことに思いを馳せながら林の中を歩くと、林の奥から縄文人の声が聞こえてくるような気がします。日常の余分なことが剝れ落ち、「生きているだけで十分だよ」と勇気づけられるような気がするのです。

自然がもたらす健康効果とは

ぼくたちは、自然との触れ合いが健康によいことを感覚的に知っていますが、科学的な研究でも裏付けられるようになってきました。

米国イリノイ州立大学の研究では、「睡眠の質が悪いグループ」は、「睡眠の質が良いグループ」に比べて、森林や公園などの緑がある空間や自然環境で過ごす時間が顕著に短いことが明らかになりました。

この結果について研究者らは、太陽の光による刺激をはじめとするさまざまな自然環境の刺激が、ぼくたちの「概日(がいじつ)リズム(※24時間周期の体内時計のこと)」を整えて、体温を正常に調節しながら睡眠の質を改善・維持しているのではないかと推論。睡眠の質を改善するためにも、自然の中で過ごす時間を増やすことを提案しています。

また、米国スタンフォード大学の研究では、大都市の中を歩くよりも、自然の中を歩くことで抑うつ的な思考から解放されることがわかりました。この研究は、38人の健康な男女を、「大都市を90分間歩くグループ」と「自然の中を90分間歩くグループ」の2つのグループに分けて、歩行する前後のfMRI撮影やアンケートを実施しました。その結果、自然の中を歩いたグループの人々は、後悔、自責、失敗エピソードの思い返しなどの後ろ向きな思考傾向が低下していることがわかったのです。

花の庭園で五感を刺激する楽しみ

年齢を重ねるごとに、庭園のすばらしさも実感するようになりました。「蓼科(たてしな)高原バラクライングリッシュガーデン」は、ぼく自身、疲れたときによく行くところです。特に、砂漠にあるイラクの難民キャンプから戻ってきたときには、花や緑に心癒されます。

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オーナーのケイ山田さんは、英国で最も権威のあるチェルシーフラワーショーに単独出場し、日本人で初めて3回受賞したという経歴の持ち主です。

英国式庭園には、オールドローズをはじめとするさまざまなバラはもちろん、初夏にはアナベルという白いアジサイ、その後はダリア、フロックス、ユリ...次々と花の景色が移り変わっていきます。8月には、夜の庭が開放され、コンサートとディナーを楽しむイベントも行われています。

P147_03.jpgP147_02.jpg諏訪中央病院の庭は患者さんたちの憩いの場。地域のボランティアの方々が病院中の庭の手入れをしてくれています。

人間も自然の一部

茅野市の隣にある原村も自然豊かなところですが、ここにもぼくのお気に入りの癒しの場があります。「カナディアンファーム」というレストランです。

ここの魅力は、林に囲まれているというロケーションだけではありません。オーナーのハセヤンの手の力も大いに魅力です。廃材などを利用して作った丸太小屋やツリーハウス、燻製窯、石窯...。なんでも一から手作りしてしまうハセヤンの器用さに感心しながら、自然の中で生き抜いてきたサバイバーとしての人間の力を実感することができるのです。

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もちろん、料理も絶品。サーモンの燻製もおいしいし、石窯で焼いたチキンは皮がパリパリ、中は柔らかで、ぼくは大好きです。

最近、何度目かのキャンプブームが来ているそうです。自然の中で火をおこしたり、料理をしたり、都市の生活ではあまり使わなくなった能力や感覚を呼び覚ましたいという渇望の表れのように感じます。

P147_04.jpgカマタの自宅のログハウス・岩次郎小屋の庭。天気がいいときはここで本を読むこともあります。岩次郎は父の名です。

身近なところに花を飾ろう

どうです、森林や庭園など、どこか自然の中に出かけてみたくなりませんか。行くのが難しければ、室内に花を飾るだけでも癒し効果は得られます。

千葉大学環境健康フィールド科学センターでは、花を見たとき、脈拍数など体がどう変化するかを調べました。その結果、副交感神経が29%活発になり、交感神経が25%抑制されることがわかったのです。つまり、花を見るだけで、副交感神経が刺激され、血管が拡張して血圧が下がり、免疫力が上がる可能性があるのです。

また、花がもたらす心理的効果を測定したところ、花がある部屋では「活気」の気分が大幅に増加し、混乱、疲労、不安、緊張、抑うつ、怒りなどが低下するそうです。

自然に触れると、ぼくたちはなんとなくほっとします。心と体の緊張がゆるむと同時に、エネルギーをチャージすることもできます。

心と体、そして自然という3つのつながりを意識しながら、ぼくたちの命を支える自然に感謝したいものですね。

 

<教えてくれた人>

鎌田 實(かまた・みのる)さん

1948 年生まれ。医師、作家、諏訪中央病院名誉院長。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。『だまされない』(KADOKAWA)など著書多数。

この記事は『毎日が発見』2019年8月号に掲載の情報です。

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