肩こり、腰痛、目の疲れ、何をやっても疲れがとれない...。年のせいかと思いきや、その原因はあなたの「脳」にあるかもしれません。そこで、『疲労回復の名医が教える 誰でも簡単に疲れをスッキリとる方法』(アスコム)を執筆した梶本修身さんが提唱する疲労回復法を連載形式でご紹介。疲労と脳の関係や実践的なストレッチを学んで、毎日をリセットしましょう。
疲労感をあてにしてはいけない
疲労とは何かを科学的に理解するとき、ひとつ重要な知見があります。それは、「疲労」と「疲労感」とが必ずしも一致しないという事実です。たとえば、「4時間ぶっ続けでパソコン作業をする」「早朝から5時間、肉体労働する」などの場面を想像してください。いずれも疲労が蓄積することは明らかですし、疲労感もかなり出現することは想像がつくと思います。
しかし、「4時間、大人気のテレビゲームを楽しむ」「早朝から5時間、大好きなゴルフを楽しむ」といった場合、同じ活動量であっても、疲労感はパソコン作業や肉体労働ほど出てきません。
ヒトは実際には疲労を起こしていても、それを感じるのは脳であるため、脳の複雑な働きによって疲労感を覚えないことがあります。物理的な疲労の程度と、主観的な疲労感は一致しないことが多々あるのです。
では、なぜ疲労と疲労感にギャップが生じるのでしょうか?疲労を起こすのは、おもに脳内にある自律神経の中枢です。この自律神経の中枢は、視床下部(ししょうかぶ)、辺縁系前帯状回(へんえんけい、ぜんたいじょうかい)などを含む回路で、脳の中心部分にあります。
そして、「疲労した」という情報を収集して疲労感として自覚させるのは、大脳の前頭葉(ぜんとうよう)にある眼窩前頭野(がんかぜんとうや)という部位であることがわかっています。
つまり、疲労が起こるのはおもに自律神経の中枢で、その疲労を自覚するのは眼窩前頭野というわけで、それぞれ部位が異なるのです。
楽しい仕事は過労死の元
「過労死する動物は人間だけ」という事実をご存じでしょうか?疲労は、痛みや発熱とともに重要な3大生体アラームのひとつです。しかし、前述したように疲労と疲労感が必ずしも一致しないことから、疲労が生体アラームとして効かなくなり、疲れが積み重なっているのにそれを感じなくなる恐れがあります。
では、なぜヒトでは疲労感という生体アラームが効かなくなるのか?それは、ほかの動物にはみられないほどに発達した前頭葉が原因です。前頭葉は、意欲や達成感の中枢と呼ばれ、人間の進化にも大きく貢献してきました。
ただ、ヒトではあまりにも前頭葉が大きくなったために、眼窩前頭野で発した疲労感というアラームを、意欲や達成感で隠してしまうことがあるのです。この現象を、「隠れ疲労」「疲労感なき疲労」といいます。
一方、前頭葉が小さいほかの動物、たとえばライオンは、獲物を追いかけるとき、どれだけ空腹であっても、疲労感を眼窩前頭野で自覚したら、アラームに従って追いかけるのをやめてしまいます。
前頭葉が発達していないヒト以外の動物は、意欲や達成感より疲労感というアラームを優先して実直に行動するのです。そのため、ヒト以外の動物は過労死することがありません。
これまでに私たちが行った過労死の研究でも、日頃から仕事にやりがいや達成感がある、あるいは上司や同僚からの称賛、昇進といった報酬が期待できて楽しく仕事をしているときほど、過労死のリスクが高いといわれています。
楽しい仕事ほど「疲労感なき疲労」が蓄積されやすく、休まずに仕事を続けることで疲労が脳と体を蝕(むしば)み、ついには過労死に至らしめるのです。
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4章にわたって疲労と回復の考え方から生活改善法まで学べます。簡単に作れる「疲労回復レシピ」も