はっきりした定義はありませんが、健康な体を維持するために必要な栄養素が足りない状態を「低栄養」といいます。正確な病気の名前ではないのですが、放置しておくのは厳禁です。
食欲がないと、「のど越しのよい麺類を少しだけ食べる」といったことはありがちです。これでは栄養バランスが悪く、エネルギー不足に陥りやすくなります。人間は、食事から栄養分を体内に摂り入れています。生きるために必要なのは、ご飯や麺類などの炭水化物、肉類や魚介類などに含まれるたんぱく質や脂質。そして、野菜や果物に含まれるビタミン類やミネラルも欠かせません。「麺類を少しだけ」では、炭水化物は補給できても、他の栄養素は足りないことは明らかでしょう。
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栄養バランスが悪いと血管や筋肉などが壊れる
高齢期に起こりやすいのは、たんぱく質・エネルギー欠乏症(PEM)です。たんぱく質は筋肉や内臓など体の基礎を支え、健康な血管を維持するために、脂質とともに重要な役割を持っています。また、炭水化物はエネルギーになるため、ご飯などを減らしてしまうとエネルギー不足に陥るのです」と、東京都健康長寿医療センター研究所副所長の新開省二先生は警鐘を鳴らします。低栄養状態が続と血管がもろくなり、心筋梗塞や脳卒中につながります。それは、中年期までの生活習慣病による動脈硬化とは別の作用で生じるのです。また、炭水化物の少ない食事では、体はエネルギー不足に陥るため、たんぱく質や筋肉を分解してエネルギー源にします。筋肉は体を動かす、骨を支えるなど、重要な役割を担っているため、筋肉量が減ることで活動量も低下してしまうのです。同時に、女性は閉経に伴う女性ホルモンの急激な減少で、骨密度が低くなって骨がもろくなる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)にもなりやすくなります。
「自立した健康的な生活を営める健康寿命は、平均寿命と比べて男性は9年、女性は約13年短いと推計されています。骨折、脳梗塞などの血管病、認知症は、いずれも低栄養が関わっています。いまからでも遅くはありません。食生活を見直しましょう」と新開先生は話します。
低栄養になると...?
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健康寿命が短くなる
男性 脳卒中、心筋梗塞のリスクが高まる
女性 筋肉量の減少、骨密度の低下によって体を動かす機能に影響を及ぼす
健康寿命は、寝たきりにならずに自立した健康的な生活を送れる状態です。低栄養で瘦せている人は、そうでない人と比べて死亡率が高く、介護費用は太っている人の2倍以上との研究報告があり、健康寿命を縮めています。
脳卒中・心臓病を中心とした心血管病のリスクは、低栄養ではない人の2.5倍
低栄養では、血管が弱くなります。血管の一部が壊死して血管壁に傷がつき、そこに小さな動脈のコブが生じることで、血管を詰まらせる血栓ができてしまい、脳梗塞や心筋梗塞、血管そのものが破れる脳出血にもつながります。
「低栄養」チェックリスト
□夏場はあまり体を動かさない
□食事はそうめんなどのあっさりしたものが多い
□メタボリック・シンドロームを気にして油脂類や卵はほとんど摂らない
□歩く速度が遅くなった
□外出の回数が減った
□特定の栄養素に注目した食事法を実践している
(例:糖質オフダイエット、低炭水化物食事法など)
夏バテで食欲がないと、血中のたんぱく質の一種・アルブミンが少なくなります。アルブミン値は栄養状態を示す指標で、この値が低いと低栄養状態に。低栄養状態の人は夏バテも起こしやすく、アルブミン値が低いと熱中症にもなりやすいので注意しましょう。
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新開省二(しんかい・しょうじ)先生
東京都健康長寿医療センター研究所副所長。医師・医学博士。日本老年医学会や日本公衆衛生学会などの評議員、厚労省「健康日本21(第2次)策定専門委員会」委員などを歴任。