夕方の神社は、ひっそりしていた。私は、わき目もふらずに参道を進み、正面にある本殿の前で、堰を切ったように話し始めた。
「一生懸命やっているのに、どうしてうまくいかないのでしょう......」
「今日も、私だけ洗い物をさせられました。あのお局さんは私のことが嫌いなんです」
「家族に相談しても、誰も聞いてくれません......私なんて......きっと、いなくなっても誰も気がつきません」
つぶやくうちに、これまでため込んできた気持ちが、あふれてきた。
これから先の人生も、こうなのだろうか。
誰にも気にかけられずに、誰にも大切にされないままなのだろうか。
先の見えない不安も重なり、私は思いあまって、「神さまがほんとうにいるなら、どうにかしてください!」と叫んでしまった。
その瞬間、私の背後でカサッと足音がした。
驚いて振り返ると、そこには、ベージュのジャケット姿の男性が立っていた。
まさか、誰もいないと思ったのに、人がいたなんて......。
私は、「ごめんなさい、聞こえていましたよね......? 恥ずかしいところをお見せしちゃって......」と言って頭を下げた。
男性は、「こちらこそ、驚かせてごめんなさい! 立ち聞きするつもりはなかったんです」と笑顔を見せた。
「どうやら、私が手水舎で手を清めていたときに、こちらに来られたようですね」
そう言って、男性はちょっと考えるそぶりを見せた。
そして、「......信じていただけないかもしれませんが、実は私も、15年前にこの神社であなたのように叫んだことがあったんですよ」と、話し始めた。








