「食欲がない」「胃がもたれる」「胃がキリキリと痛む」......誰もが一度ならず経験があるのではないでしょうか。胃の調子は健康のバロメーター。不調であれば、「食べた物が悪かった?」「それともストレスが大き過ぎた?」と考え、食べる量を控えるなどして、胃の健康を保とうとします。なぜ、胃の調子は悪くなってしまうのでしょう。しょっちゅう起こる胃痛や胸やけから、胃食道逆流症、胃潰瘍や胃がんまで、兵庫医科大学病院副病院長の三輪洋人先生にお聞きしました。
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胃の不調を表現するのは難しい
自律神経と深いつながりのある胃は、ストレスで痛むこともあり、痛いのに炎症がないこともあります。自分で自在に動かすことはできませんし、食べ過ぎればすぐに調子が悪くなることがあります。一方で、病気があるのにもかかわらず、症状が出ないこともあり、とてもやっかいです。
「胃の不調をどのように表現しますか?『重い』『キリキリと痛い』『張った感じがする』......様々な表現がありますが、うまく表現するのはとても難しい。実際に、『何というか、何ともいえない感じが......』『胃が重い......と言っていいのだろうか』などと話す患者さんは多くいます。もしかすると『チクチクと痛い』というくらいは、感じていることと表現が合っているかもしれません。
それにうまく表現できたとしても、それが相手にきちんと伝わるかといえば、それも難しいのです。Aさんの『キリキリ痛む』とBさんの『キリキリ痛む』は、言葉は同じでも、全く違う症状をさしているかもしれません」と三輪先生。
胸やけって、どんな感じでしょう?
では、ここで質問です。「胸やけ」とは、どんな症状でしょうか?
「胸のあたりが重苦しい」「胸のあたりがそわそわする」「胸のあたりがどーんとする」「こみ上げてくる感じがする」「詰まっている感じで食欲が出ない」......どれも不正解です。
三輪先生からの正解は、「医学の世界で『胸やけ』とは、胸を中心として、灼熱感、燃えるような痛みがあり、のどや肩に放散する感じがある」とのこと。まさに胸のあたりが焼けているようだ、という状態です。言葉に対する誤解があり、症状を他人に伝えることが困難な場合もあります。
症状から病気の特定はできない
「胃の不調は、訴えの内容から病気を特定することは、まずできません。
私のところで行った研究からも、そのことがわかる結果が出ています。何人かの胃の中に管を入れて、少しずつ胃酸を入れていく実験をしました。どんな症状が現れたかと言いますと、ある人は『気持ちが悪い』と言い、またある人は『チクチクする』と言いました。別の人は『重い感じがする』と言いました。体の中で起きた同じ刺激に対して、人の反応は全く違うわけで、訴えから、病気を類推することはできません。訴えと病気は紐づかないのです。
万人がさまざまに腹部の不調を訴えます。病気はわからないけれど、不調だという訴えはあるわけです。とくに上腹部(へその上のおなか)の不調の訴えのすべてを『ディスペプシア』という一つの言葉にまとめていました。やがて胃酸の問題、動きの問題、知覚過敏の問題があるとわかり、薬もできました。
その訴えで病気が見つかるかはわからないのですが、話して聞いてもらうと症状が治まることもあります」(三輪先生)
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取材・文/三村路子