「食欲がない」「胃がもたれる」「胃がキリキリと痛む」......誰もが一度ならず経験があるのではないでしょうか。胃の調子は健康のバロメーター。不調であれば、「食べた物が悪かった?」「それともストレスが大き過ぎた?」と考え、食べる量を控えるなどして、胃の健康を保とうとします。なぜ、胃の調子は悪くなってしまうのでしょう。しょっちゅう起こる胃痛や胸やけから、胃食道逆流症、胃潰瘍や胃がんまで、兵庫医科大学病院副病院長の三輪洋人先生にお聞きしました。
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無自覚な胃潰瘍が約70パーセント
胃の表面に異常が起きる病気もあります。そのひとつが「胃潰瘍」です。一般的に「胃に穴が開いた」などともいわれ、胃潰瘍はとても痛そうなイメージがありますが、実際には、どのような病気で、どのような症状があるのでしょうか。
「胃は、強烈な胃酸の影響を受けないように、胃壁の表面を粘膜で覆っています。ところが、粘膜の分泌が減るなどして防御機能が低下すると、胃壁が傷つきます。胃壁がえぐれた状態になると、胃痛やむかつきなどの症状が出ます。重症化して、胃に穴が開いたり、患部に出血があれば、吐血をしたり、血の混じった黒い便が出ることがあります。
胃潰瘍は胃が傷つく病気で、激しい痛みが起きるイメージがあります。ところが、胃潰瘍がある人で、自覚症状がある人は3割しかいません。7割の人は症状がないのです」と三輪先生。
日本人の2人に1人がピロリ菌に感染
胃潰瘍になる最大の原因は、「ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)」です。胃の粘膜の中にピロリ菌が発見されたのは、1982年のこと。胃潰瘍の患者は高い確率でピロリ菌を持っていること、ピロリ菌を除菌すると繰り返し起きていた胃潰瘍の再発が止まることがわかったのです。
ピロリ菌は胃の粘膜に潜り込み、細胞毒素やアンモニアを出して粘膜を傷つけます。それと同時に人間の白血球やリンパ球が異物であるピロリ菌を攻撃するため活性酸素などの攻撃物質を多量に放出します。これらの攻撃物質がピロリ菌のみならず自身の粘膜を傷つけると考えられています。日本人の約半数が感染しており、特に70、80代以上の7、8割は感染していると考えられています。
「生まれたばかりの赤ちゃんの胃にはピロリ菌はいません。ところが上下水道設備が不十分であるなど衛生状態の悪い場所で生活をしているとピロリ菌が体に入り、胃に住み着いてしまいます。ですから、昔の衛生状態の悪い時代を経てきた高齢者に感染者が多いのです。また都会に住んでいた人よりも、田舎に暮らしていた人の方が感染率は高い。
免疫機能が完成すれば感染しないので、20歳くらいで検査して、ピロリ菌が見つからなければ、その後、ピロリ菌に感染することはほとんどありません。そして一生のうち、胃潰瘍や胃がんになる可能性は相当低くなります」(三輪先生)
ピロリ菌に感染していると、胃潰瘍や胃がんになるリスクが高くなります。胃がんについては、ピロリ菌に感染している人は、感染していない人に比べて、リスクが5倍高いといわれています。
ピロリ菌の検査方法は下記の4つです。
●内視鏡検査
胃壁の様子を観察し、同時に胃粘膜の組織を採取。菌を培養するなどして、数日後にピロリ菌がいるかどうか判明する。ピロリ菌がつくるウレアーゼ酵素の有無を調べることで、すぐに結果がわかる検査もある。検査の前には食事の制限がある。
●便中抗原検査
便とともに排出されるピロリ菌がいるかどうかを調べる。
●血清抗体法、尿中抗体法検査
血液や尿を採取する。そこにピロリ菌に対する抗体の有無を調べることで、菌がいるかどうかがわかる。
●尿素呼気検査
吐く息を調べて、ピロリ菌がアンモニアをつくり出す際に出しているウレアーゼ酵素の有無を調べる。
ピロリ菌検査の費用の目安は、方法によりますが、数千円~約2万円ほど。胃が慢性的に痛むなどの症状があって医療機関で受診し、医師が検査の必要性を判断した場合には、健康保険が適用されます。
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取材・文/三村路子