「家族ともに食事の団らんを楽しんでいますか?」
農林水産省の調査によると、家族と一緒に食事をとる頻度として「ほとんど毎日」と答えたのは、朝食は54.5%、夕食は64パーセント、その一方、「ほとんどない」と答えた人の割合は、朝食は23.8%、夕食は7.3%であった(平成28年3月 農林水産省「食育に関する意識調査報告書」)。食べることは人間にとって欠くことができない行為のひとつだ。そして、家族のコミュニケーションのための大切な時間でもある。
ところが、夫は仕事、妻は家事と育児と仕事、そして子供たちは学校の勉強、塾、習い事に、みな忙しい。まさに「心」を「亡くして」しまいそうな毎日の中、私たちは忙しさと戦いながらよりよい暮らしのために努力し、工夫を凝らす。しかしこれがなかなかうまくいかない。
忙しい人は、「時間を短縮しても、心は抜かない」工夫を学んで。
そうおっしゃるのは、92歳にして現役料理家の、桧山タミ先生。戦前から料理を学び、戦後は日本の料理研究家の草分けである、故・江上トミ先生とヨーロッパ料理研修旅行を敢行。早くに夫を亡くしたが、料理で生計を立てふたりの息子を育て上げた。『いのち愛しむ、人生キッチン 92歳の現役料理家・タミ先生のみつけた幸福術』(桧山タミ/文藝春秋)には、50年続く「桧山タミ料理塾」のエッセンスとタミ先生の人生哲学が、豊富な写真とともにぎゅっと詰まっている。
■元気と好奇心と幸せの秘訣
本書は4つの章で成り立っている。1章 大らかなれ、2章 賢くあれ、3章 健やかなれ、4章 やさしくあれ。その4つの柱はタミ先生の人生哲学に通じる。そして、読み手はどの章から読みはじめてもいいのだ。仕事のこと、家庭のこと、迷いや悩みが生じたとき、そっとページをめくれば、タミ先生の「ほんとう」の言葉が心に寄り添ってくれるだろう。
■女性は「太陽」より、「お月さま」
タミ塾の生徒は20代から70代までの女性。忙しさの合間をぬって通う人もいる。常に「時短」と「手間をかけること」の矛盾に悩む女性たちにも、タミ先生の言葉は明快だ。
ときに女性は家族を煌々と照らす「太陽」って言われることがあるけれど、わたしは太陽より「お月さま」がいいと思います。やわらかい光で家族をそっと照らして、疲れた日は「今日は闇夜。お母さんはお休みしまーす」って言ってサッサと寝てしまっていいの。そんな日は外食したっていいし、ご主人や子どもたちに任せてみてもいいじゃないですか。
食べ物には作り手を通してその人のエネルギーや思いがはいるもの。だから、作り手が疲れていては美味しい料理は作れない、とタミ先生は言う。
いつも元気で楽しく、メリハリのある生活を送り、疲れたらきちんと休む。そんな当たり前のことですら実行するのが難しいご時世だ。いつも傍らで人生を説いてくれるタミ先生、末永くおいしい料理を作り続けてほしい。
文=銀 璃子
みつけた幸福術
(桧山 タミ / 文藝春秋)
「がんばらんでいいの」92歳料理研究家が贈る魔法の言葉。悩みがある時この本を開いてみてください。心に触れるタミ先生の「ほんとう」の言葉が生きる力につながるお守りになるはず。