知っていますか?エコノミークラス症候群と下肢静脈瘤の違い

50代〜60代の約6割、70歳以上の7割以上がかかっているとされる「下肢静脈瘤」。日本では約4800万人の患者がいるともいわれています。でも、この病気は良性の病気ですから、必要以上に怖がらなくて大丈夫。セルフケアをすることで、症状の改善が期待できます。今回は、お茶の水血管外科クリニック院長・広川雅之先生に「エコノミークラス症候群と下肢静脈瘤の違い」基礎知識をお聞きしました。

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下肢静脈瘤で血管がボコボコと浮き出ていると、「すぐに治療が必要」と思われがちです。血栓が生じたら「命に関わるかもしれない」と考える人もいるでしょう。でも、それらは全て間違いです。

「下肢静脈瘤の症状があると、すなわちエコノミークラス症候群だと勘違いされることが多いのです」と広川先生は指摘します。

エコノミークラス症候群は肺血栓塞栓症といい。脚の深いところにある深部静脈にできた血栓が、血の流れにのって移動して肺の動脈に詰まる病気です。飛行機に乗っているときにおこることがあるため、エコノミークラス症候群と呼ばれますが、それ以外でも、手術後や長時間動かない場合にもおこります。

一方、下肢静脈瘤は皮膚の下の表在静脈の弁が壊れ、血液がうっ滞するのが原因です。深部静脈の血栓とは基本的に関係ありません。エコノミークラス症候群とは異なる病気です。下肢静脈瘤で表在静脈の血液がうっ滞しても、深部静脈の血液はきちんと流れ、血液循環として問題はなく、血栓もできません。

「下肢静脈瘤は、ご本人が見た目が気になる、また、むくみやだるさなどの症状がある、あるいは、湿疹や色素沈着などのうっ滞性皮膚炎があれば、治療の対象となります。ただし、すぐに手術が必要なわけではありません」と広川先生は話します。

下肢静脈瘤は症状によってQOL(生活の質)は下がりますが、命に関わる病気ではありません。それゆえに手術方法や受ける時期などをご自身の都合に合わせることが可能です。手術方法もいろいろあるので、よく考えることが大切。また弾性ストッキングや体操で症状を改善できることもあります。

「下肢静脈瘤と診断されて『すぐに手術」と言われたら、別の医療機関のセカンドオピニオンを活用しましょう」と広川先生。

足の主な静脈

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脚の奥の深部静脈、皮膚に近い表在静脈があり下肢静脈瘤は後者に関係。血液の約8割は深部静脈を流れます。

動脈と静脈の役割

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動脈

・心臓から送り出された血液を臓器に届ける

・弾力がある

→動脈が詰まると脳梗塞や心筋梗塞になる

静脈

・臓器に送り込まれた血液を心臓に戻す

・血管壁は薄い

・弁が付いていて、血液は一定方向にしか流れない (動脈には弁がない)

→弁が壊れると、下肢静脈瘤になる

静脈は心臓へ血液が戻る通り道。脚から戻るときには重力に逆らわなければならないので、逆流防止弁が壊れやすいのです。

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取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史

 

<教えてくれた人>

お茶の水血管外科クリニック院長

広川雅之(ひろかわ・まさゆき)先生

1962年神奈川県生まれ。高知医科大学卒ジョンズホプキンス大学医学部、東京医科歯科大学血管外科などを経て2005年より現職。日本静脈学会の下肢静脈瘤治療がイドライン委員長など歴任。

この記事は『毎日が発見』2019年9月号に掲載の情報です。

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