健康のため運動を「がんばる」必要はない。運動を習慣化する秘訣を医師が解説

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『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』 (舛森 悠(Dr.マンデリン)/KADOKAWA)第3回【全7回】

北海道で総合診療科の医師として働く舛森 悠氏。総合診療科とは、特定の疾患や臓器、年代に限定せず、あらゆる患者さんに対し診療を行う科のことで、舛森医師はそこで1万人以上の高齢患者さんを診察してきました。 その著書『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』(KADOKAWA)には、たくさんの患者さんたちのおかげでわかった、気づいた、何歳になっても健康に幸せに生きられる知恵がまとめられています。 「無理に7時間も寝なくていい」「運動よりも仲間とおしゃべり」など、目からウロコの情報の数々のなかから、今日から実践できる健康習慣をご紹介します。

※本記事は舛森 悠(Dr.マンデリン)著の書籍『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』から一部抜粋・編集しました。

1万歩は不要。「たくさん=よい」は誤りです

「運動は健康にいい」というのは、もちろんそのとおりです。しかし、運動をはじめたものの、続かなかったという人が多いのではないでしょうか。

週3回、1回につき30~60分の運動を続けるといいそうですが、それができれば苦労しませんよね。

恥ずかしい話ですが、実は僕も続かない1人です。最低でも週2回はジムで汗を流すことを目標としていますが、実際には週1回がやっとです。運動の医学的な重要性をわかっていてもこの有様なのです。

そんな僕から、運動が続かない皆さんに提案です。運動は、少しやるだけでも効果があると思ってみてください。1週間に1回、10分だけでもいいと思います。

というのは、運動は多くの人にとって、理想を高くするとどうしても続かないものだからです。

例えば、「健康診断で脂肪肝(あるいは脂質異常症、糖尿病予備軍など)と言われて運動指導をされてしまったから、これからは休日に30分ウォーキングをがんばろう!」という流れで運動をはじめる人は、よくいらっしゃいます。

このような真面目な人、理想を高く掲げる人のほとんどは、残念ながらウォーキングを続けられません。「今週は仕事が立て込んでいるから」「ちょっと風が強いから」などと何かしら理由をつけて、休みたくなってしまいます。そして一度休んでしまうと、だんだんやる気がなくなって、気がついたら運動しようと思ったことそのものを忘れてしまうのです......。

僕の外来に通院しているIさんは70代の女性ですが、旦那さんと週3回もパークゴルフを楽しんでいます。

「運動は好きじゃないけど、パークゴルフは楽しいから続けられるんです」と嬉しそうに話すIさん。

たしかにパークゴルフは競技そのものが楽しく、コースを歩きながらおしゃべりもするので、コミュニケーションも発生します。"年をとってもご機嫌に生きる"ためには、運動と同じくらい人とのつながりが大事です。

アスリートならともかく、一般の人が健康のために運動をするなら、「がんばる」よりも「楽しんでいたらいつの間にか運動していた」というほうが続くものです。もしくは友人や家族と「夕飯を食べたら一緒にウォーキングしよう」というように、約束をしておくと強制力が働いて継続しやすいでしょう。

運動というのは不思議なもので、直前までは面倒くさいのに、いざやってみると爽快感があって楽しいですよね。

「パークゴルフは楽しいからたくさん歩かさるんです」(「歩かさる」とは「ついつい勝手に歩いてしまう」という北海道の方言です)とのIさんの言葉を聞いて、楽しさこそが運動を続ける秘訣なのだと教えられました。

Iさんがやっている運動習慣を続けるコツ

・「がんばる」でなく「楽しむ」姿勢で!

また、運動はたくさんすればするほど体にいいわけではないということも、世界各国の研究で明らかになってきました。

ポーランドとアメリカの共同研究では、世界各地の22万6000人分のデータを分析した結果、心臓と血管によい影響を与えるには、わずか1日2300歩強でじゅうぶんでした。(※1)

人によって差はありますが、だいたい10分で1000歩歩けます。ということは1日20分歩くだけでも、心臓の病気のリスクを下げられることになります。

高齢者においては、無理をして運動すると体の負担になりかねません。そこで参考にしたいのが、日本の65歳以上の高齢者4165人を対象に行われた研究です。

それによると、1日の歩数が5000歩未満の高齢者は、歩数を1000歩増やすことで死亡リスクが約23%低下するものの、すでに5000歩以上を歩いている高齢者が歩数を増やしても、有益な効果はなかったとされています。(※2)つまり高齢者の場合は、歩くとしても1日5000歩くらいが適当なのです。

歩きすぎに注意という研究もあります。ハーバード大学の研究では、週に3500キロカロリーを消費するほどの運動をしていると、死亡リスクが上昇するという結果が出ています。(※3)

かなり大雑把ですが、毎日1万6000歩歩くと、1週間で3500キロカロリーが消費されます(体重などの諸用件にもよりますが、厚生労働省は1分の歩行で3キロカロリー消費できるとしており、100歩3キロカロリーで計算しています)。単純に消費カロリーと死亡リスクの関係を示した研究なので、必ずしも1日1万6000歩が危険だとは断定できません。しかし、運動のしすぎがよくない可能性があるというのも事実です。体力や普段の運動量を考慮して、自分にあった運動プランを考えていくことが重要でしょう。

こうしたことも踏まえて、患者さんに運動を勧めるなら、やはり「楽しんでいたらいつの間にか運動していた」という状態になれるようなものがいいと思いますし、実際にそういった患者さんが運動を継続できている印象です。

運動量は少なくてもいいので、楽しい運動を習慣に。心躍る運動を生活に取り入れてみてくださいね。

*1: Maciej Banach, et al. The association between daily step count and all-cause and
cardiovascular mortality: a meta-analysis. Eur J Prev Cardiol . 2023 Aug 9:zwad229.
*2: Daiki Watanabe, et al. Dose-Response Relationships between Objectively Measured Daily
Steps and Mortality among Frail and Nonfrail Older Adults. Med Sci Sports Exerc . 2023 Jun
1;55(6):1044-1053.
*3: R S Paffenbarger Jr, et al. Physical activity, all-cause mortality, and longevity of college
alumni. N Engl J Med . 1986 Mar 6;314(10):605-13.

 
※本記事は舛森 悠(Dr.マンデリン)著の書籍『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』から一部抜粋・編集しました。
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