2030年には「男性が3人に1人、女性が4人に1人」が生涯孤独時代を迎えると言われています。数値だけを見ると「孤独=不幸」が刷り込まれてしまいます。幸福学博士・前野隆司さんの著書『幸せな孤独 「幸福学博士」が教える「孤独」を幸せに変える方法』(アスコム)から、幸せな孤独を実現する方法をご紹介します。
【前回】長続きする幸せは健康、自由、愛情、自主性...比べないものを見ること/「孤独」を幸せに変える方法
オタクがとっても幸せな理由
オタクという言葉は、かつてはネガティブな意味を含むこともありましたが、最近はむしろポジティブな意味合いのほうが圧倒的に強くなっています。
自らを「●●オタク」だと、堂々と名乗る人も珍しくありません。
なぜでしょうか?
私は、オタクの人たちが幸せな孤独を実現しているからだと思います。
彼らが、周囲からの同調圧力に負けずに、自らの「好き」を貫いた結果、幸せを手に入れたという事実を、世の中の多くの人が認識し始めたということが背景にあると思います。
ありのままの自分を肯定し、自分を「うけいれる」。
自分の好きなものの価値を、他者に判断させるのではなく、自らで決めることは「ほめる」要素につながります。
自分にとって何が面白くて、何を求めているのかが明確にわかっている人は、幸せの近くにいると思います。
きっとそれは、画一的なものではないでしょうし、勝ちか負けかという価値基準からくるものでもないと思います。
合理的でなくてもいいし、金銭的な価値や効率、社会的な意義と結びついていなくてもいい。
変でもいい。
意味がなくてもいい。
自分が心の底から楽しめるものであればなんでもいいと思います。
日常と人生の目標の間に一貫性のある人は、人生の満足度が高いという研究結果があります。
これは、目の前のことばかりを考えないで先のことも考えたほうがいいということです。
ただ、「目標に到達できるように競争に打ち勝っていこう」ということではありません。
それはもう前時代的な考え方だと思います。
争いに勝つことで得られる幸せは、比べることで得られる地位財の幸せであって、長続きすることはありません。
今の時代に求められている幸せは、「well-being」。
ゆっくりでもいいから、自分を見つめ直し、長く続く幸せを手に入れることです。
これからは、地球に生きる78億5000万人が78億5000万通りのやり方で自分らしさを見つけ、その78億5000万分の1の個性を生かしながら、幸せになっていく社会なのではないかと思います。
つまり、地位や名誉、お金のような地位財の獲得を目指すのではなく、それぞれのらしさが生きる何かを見つける時代なのです。
「老いる」とは「幸せになる」ことである
大家族に囲まれて幸せそうにしている高齢の方がメディアで流れることがあります。
一方で、一人また一人と友人や知人、そして大切な人を失っていくのも、年を重ねることの宿命でもあります。
老いると、やはり幸せは遠ざかっていくものなのでしょうか。
実は、そうでもないようです。
20代くらいの私は迅速かつ確実に細かい仕事をこなすのが得意でした。
しかし、年を重ねていくと細かいことよりも全体が見えるようになり、若い頃よりバランスよく働けていることを実感しています。
細かいことを考える脳の神経回路が劣化して全体のことしか考えられなくなったとすれば老化ですが、細かいことが気にならなくなり、ものごとを楽観的にとらえられるようになったとすれば進化ともいえます。
年を重ねることは嘆くことではなく、喜ぶべきことなのです。
幸福研究の一環として私たちが行ってきた欲望の研究では、「自分は○○したい」という利己的欲求は20代をピークに減少していき、「社会や他人を○○したい」という利他的欲求が年を重ねる度に増加していく傾向がありました。
利己的欲求が強い間は、仕事をしていてもしていなくても、さまざまな場面で孤独を感じることが多くなります。
どうしても人と比べて自分を評価してしまうからです。
ところが高齢者になって利己的欲求より利他的欲求が強くなってくると、自分のことよりもまわりの人のためになることが気になってくるので、自分を人と比べることが少なくなります。
比べたとしても「ま、いいか。あと10年くらいでお迎えも来るだろうから」とあっけらかんとしたものです。
そして、90~100歳になると、多くの人がものごとに動じなくなるといいます。
いわゆる、悟りの領域です。
これを老年的超越といいます。
お釈迦様は30歳で悟りを開きましたが、私たちは90~100年かかるのかもしれません。
老年的超越とは、超高齢になることで得られる主観的な幸福感です。
その領域に達すると、老化によるあらゆる機能の衰えを否定せず、現状を肯定するので、幸せを感じるといわれます。
そのため、孤独にも強いことがわかっています。
高齢になるほど幸せを感じやすくなるのは、性格の影響もあるようです。
性格と幸せに関係があることは、多くの研究結果から明らかになっています。
私たちが行った調査でも同じ結果が得られました。
調査した性格要因は、外向性、協調性、良識性、情緒安定性、知的好奇心の5つです。
その結果、5つの要因すべてで主観的幸福と正の相関が見られました。
つまり、性格がいいほど幸せになれるのです。
この5つの性格要因は、年を重ねるほどよくなる傾向があります。
たとえば、10代と70代では明らかに5つの性格要因に差が生じました。
この結果がすべての人に当てはまるとは言い切れませんが、年齢を重ねることで性格が丸くなり、それによって幸福度が上昇していく可能性が高いとはいえると思います。
なぜ、年を重ねると性格がよくなるのか。
人は年齢を重ねれば重ねるほど、いろいろな経験をします。
その経験を通して、クセがなくなり外向的になる、自分勝手ではなくなり協調性が増す、非常識ではなくなって良識的になる、神経質ではなくなり情緒が安定する、さまざまな時代を乗り越えることで知的好奇心が高まる、ということなのかもしれません。
先ほど「不機嫌な高齢者」について述べましたが、孤独感をなくして「幸せな孤独」を実現することで、不機嫌になることがなくなり、本来高齢者が持っている幸福感に近づくことができるでしょう。
徳川家康は言いました。
「人の一生は重き荷物を負うて遠き道をゆくがごとし」「人生は修行」とも言いますが、どうやら苦行ではないようです。
修行を続けていくと、どんどん幸せになっていくようです。
「老いる」とは、心身の衰えを感じたり親しい人たちと別れたりして不幸になるのではなく、「幸せになる」ということなのです。
孤独に悩んでいるあなたも、その先には、幸せが待っているということでもあります。