2030年には「男性が3人に1人、女性が4人に1人」が生涯孤独時代を迎えると言われています。数値だけを見ると「孤独=不幸」が刷り込まれてしまいます。幸福学博士・前野隆司さんの著書『幸せな孤独 「幸福学博士」が教える「孤独」を幸せに変える方法』(アスコム)から、幸せな孤独を実現する方法をご紹介します。
【前回】コミュニケーション力がとても高い女性は共感力があるから孤独に強い/「孤独」を幸せに変える方法
物質的な幸せは長続きしない
ここからは、幸せな孤独を手に入れる方法について話していくことにします。
それでは質問です。
あなたにとっての幸せとは、どういったものでしょうか?
・お金持ちになること
・素敵な人と結婚すること
・夢をかなえること
・いつも友だちがまわりにたくさんいること
・みんなから注目される存在になること
・ふつうの生活ができること
人それぞれに、いろいろな幸せがあると思います。
その幸せを手に入れたときに孤独感から解放されるなら、どれも正しい幸せです。
もちろん、独りのまま幸せになる人もいれば、誰かと一緒に幸せになる人もいるでしょう。
それは単なるひとつのスタイルに過ぎないことなので、あなたが幸せになるなら何も気にすることはありません。
ただし、私は、幸せは多様でも、基本メカニズムは単純なのではないかと考えています。
それは、私が研究を続けている幸福学という学問により裏づけられています。
そして、幸せへの道筋を明確にすることができれば、もっとたくさんの人たちが幸せになれるのでないかと思っています。
どうして道筋が必要なのかというと、ダイエットと同じで、メカニズムを理解していないと、何度トライしてもゴールにたどりつくことが難しくなるからです。
幸せになろうとしては傷つき、裏切られ、失望し、それでもあきらめなければ希望はあります。
しかし、やがてどうしていいかわからなくなると、あきらめてしまうことになります。
人生をあきらめてしまうのは、とても不幸なことです。
幸せのメカニズムを理解するために、最初に気づいてほしいのは、幸せには長続きする幸せと、長続きしない幸せがあるということです。
長続きしないと表現すると、「それは幸せとは言わない」と指摘されそうですが、ものすごく短い幸せなら、「私は不幸です」という人にもあると思います。
うれしい、楽しい、気持ちいいといった、幸せなときに生まれる感情があります。
たとえ自宅に引きこもっていたとしても、テレビやユーチューブなどを見ていて、クスっと笑ってしまったり、楽しい気持ちになったりすることがあるのではないでしょうか。
ゲームばかりしていても、ハイスコアを出したり、格闘ゲームで相手を倒したりすれば、爽快感や達成感に満たされることもあるのではないでしょうか。
そうした感情的に幸せな状態のことを、英語では「happiness」(ハピネス)と表現されます。
「happiness」という言葉はいい響きですし、聞くだけでなんとなく幸せな気持ちにさせてくれますが、あっという間に消えるものでもあります。
幸福学が目指す幸せは、それとは異なります。
幸福学が目指すのは、「well-being」。
長続きする幸せです。
幸せな孤独もまた、「well-being」。
欧米における幸福研究は、一般には「well-beingstudy」のことをさしています。
それでは、長続きする幸せとは、どんな幸せなのでしょうか?
わかりやすい視点を提示してくれたのが、イギリスのニューカッスル大学の心理学者であるダニエル・ネトルです。
それは、地位財と非地位財という視点です。
地位財に分類されるのは、所得、社会的地位、資産など、まわりの人と比べることで満足を得られるものです。
非地位財に分類されるのは、健康、自由、愛情、自主性など、まわりの人と比べなくても喜びを得られるものです。
地位財による幸せは、長続きしない幸せです。
たとえば、収入が増えて周囲の人たちより多く稼げるようになったとします。
そのときはうれしいのですが、しばらくすると、もっとお金が欲しいとさらに高い収入を求めるようになります。
そこから収入が増えなかったり、下がったりすると、不幸のタネになることさえあります。
思いのほか長続きしなくてむなしくなるのが、地位財による幸せなのです。
それでも私たちは、どれだけお金を持っているか、どんなポジションで仕事をしているか、どんな家に住んでいるか、どんな車に乗っているか、どんな服を着ているかなど、ほかの人と比較するほうが、自分がどのくらいの位置にいるのかわかるだけに、ついそちらの幸せを目指しがちになります。
一方、非地位財による幸せは、長続きする幸せです。
たとえば、やりたいことが仕事にできている自分に満足しているとします。
そこで得られる幸せは、誰かと比べてわかるものでもなく、自分の中だけにあるものです。
自分が「幸せだ」と思っている以上、いつまでも続くことになります。
ただし、幸せかどうかは自己評価であり、ほかの人と比べられないので、目指しにくいところもあります。
「well-being」とは、誰かと比べるものではありません。
比べなくても、自分の心が豊かになるのが、本当の幸せだと思います。
ですから、独りでも幸せになれるし、誰かと一緒にいても幸せになれるのです。
ただ、自分がどうしたら幸せなのかわかっていない人もたくさんいます。
というのは、誰かと比べることで幸せを実感してきた人が多いからです。
幸せな孤独を手に入れたいのなら、よく見るのは自分。
まわりにいる誰かのことではなく、自分のことなのです。
自分の幸せは「比較」からは見つけられない
そういう私も、あるときまで、自分がどうすれば本当に幸せなのかわかっていませんでした。
気づかせてくれたのが、私のところの学生が研究していた「カレンダー○×法」でした。
やり方は簡単です。
毎日、1日の終わりに今日1日を振り返り、幸せな日だったと思えば○、不幸せな日だったと思えば×、どちらともいえないなら△とし、その理由を簡単に書き込みます。
私の場合は手帳でしたが、今ならスマホでもいいでしょうし、専用のシートを自作して書き込んでいってもいいと思います。
私は、何か新しいアイデアが浮かんできた日や仕事で何か成果をあげた日に、幸せな日だったと○をつけると思っていました。
自分がどういうことに幸せを感じるか、わかっているつもりでした。
ところが、違っていたのです。
私が〇をつけたのは、面白い人に会ったとか、誰かと意気投合したとか、誰かと一緒に何かを始めたなど、対人的な幸せばかりだったのです。
○の日のなかには、アイデアが浮かんだり、仕事で成果をあげたりした日もあったはずなのですが、1日を振り返ったときに、幸せを感じることとして印象に残ったのは、対人的な幸せでした。
私は第1章でもお話ししたように、独りでいるのが好きな性格です。
人と会うのが嫌いというわけではありませんが、元来、積極的に新しい人と会ったり、人の輪に入っていったりする性格ではありません。
ですから、対人的な幸せが自分の幸せだとは、まったく考えていませんでした。
自分がどうすれば幸せなのか、わかっていなかったんですね。
機会があれば、あなたもカレンダー○×法を試してみてください。
簡単なので、今日からでも始められます。
意外な自分に気づき、孤独感から解放されるきっかけになるかもしれません。
私は、自分の幸せに気づいてから生活が変わりました。
長続きする幸せのタネを見つけたのです。
それからは、それまで以上にいろいろな人と接するように心がけることにしました。
それまでは、仕事上で必要最小限の人としか会っていませんでしたが、一歩踏み込んで、仕事にかかわるかどうかわからなくても、面白そうだなという人には会ってみるようにしたのです。
それで仕事にならなくてもいいのです。
何か新しい気づきがあれば十分ですし、何より幸せを感じられるのですから、それ以上のことはありません。
そこには、自然に積極的になる自分がいました。
もちろん、カレンダー○×法で、すべての人が、自分がどうすれば幸せになれるのか気づけるとは限りません。
なかには、×ばかりがついて悩みが深くなったという人もいます。
そういう人は「カレンダー・マーキング法」を試してみてください。
いずれにしても、自分がどうすれば幸せなのか気づくことは、孤独感から解放されるためにはすごく重要なことなのです。
幸せになる方法を科学的に分析
幸せを感じる要因はたくさんあります。
といって、考えられるすべての要因を満たせば幸せになれるというわけでもなく、たったひとつだけ満たせば幸せでいられる人もいます。
ただ、幸福学を研究する立場としては、考えられる要因のどれを満たせば幸せになれるのか、たったひとつでいいなら、どの要因なのか、それを知りたい。
そこで行ったのが、「幸せの因子分析」です。
因子分析は、知りたい対象に関係する多くの項目を、多くの人にアンケート調査し、その結果を分析し、考察していくという分析手法です。
因子分析をするにあたって、ひとつ条件を置きました。
それは、心的要因のみをアンケートの対象にすることです。
心的要因とは、楽観性があるとか、ユーモアがあるとか、自主性があるとかといった項目です。
対して、外的要因とは、収入が1000万円以上あるとか、持ち家があるとか、治安がいいとかといった項目です。
心的要因のみにしたのは、そのほかの要因は、自分でコントロールできない場合が多いからです。
それから、心的要因は非地位財が多いのに対し、外的要因は地位財が多いからです。
幸せのメカニズムとして解明したいことは、幸せになるための道筋。
そこに自分で変えられないものが含まれていると実現が困難になるし、幸せになれたとしても長続きしないものだと「well-being」ではありません。
因子分析の結果からわかった、幸せになる因子は4つです。
1.「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子)
2.「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)
3.「なんとかなる!」因子(前向きと楽観の因子)
4.「ありのままに!」因子(独立と自分らしさの因子)
幸せになる要因はたくさんあるように思えますが、因子分析でまとめてみると、この4つでした。
ここで誤解がないように述べておきますが、この4つの因子は普遍的なものではなく、今の日本人の幸せの特徴を表わしたものだということです。
私個人の意見としては、幸せの因子の構造は時代とともにそれほど変化するものではなく、数十年経っても色あせないものだと思います。
それでは簡単に、4つの因子を紹介しましょう。
1つめの因子は、「やってみよう!」因子です。
自分の得意なことを見つけて伸ばすことは、幸せにつながります。
地位や名誉やお金を得られないことだったとしても、自分が面白いと思うことならなんだってかまいません。
それがわかっている人は幸せな傾向があります。
2つめの因子は、「ありがとう!」因子です。
つながりと感謝を大事にしていると、幸せにつながるということです。
人に感謝したから、人に親切にしたから幸せになるというより、そうした行為が好循環となって、やがて自分の幸せを手繰り寄せるのだと思います。
3つめの因子は、「なんとかなる!」因子です。
ものごとを楽観的にとらえられると、幸せにつながります。
自分にダメ出しをするようなタイプではなく、そこそこでも満足できるようなタイプが幸せな傾向があります。
4つめの因子は、「ありのままに!」因子です。
人の目が気にならなくなると、幸せにつながるということを表しています。
日本人が苦手な因子かもしれません。
事実、アメリカ人は「人の目を気にしない傾向」が強く、日本人を含む東アジア人は「人の目を気にする傾向」が強いといわれています。
文化や教育の違いもあるでしょうが、人の目を気にせずにマイペースで生きている人のほうが幸せな傾向があります。
この4つの因子を少しずつ伸ばしていくのが、幸せになるための道筋です。
たった4つですから、自分に何が足りないのか、なんとなく気づけると思います。
どこから始めてもいいので、少しずつ伸ばしていくと、幸せが待っているでしょう。