社会現象にもなったマンガ『鬼滅の刃』をご存じですか? 主人公が妹を守って戦う姿に感動し、「私も強くなりたいな...」と憧れを感じたした人も多いのではないでしょうか。そこで大ベストセラー漫画の主人公の生き方を参考に、キャリアカウンセラーの井島由佳さんが「強く生きるための教え」を語ります。その井島さんの著書「『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方」(アスコム)から問題を解決する、状況を好転をするためのヒントをご紹介します。
「お前には負けない」が行動力につながる
チーム一丸で取り組むと、仲間のことを意識し、理解することができます。
そして、競争心やライバル心が芽生え、切磋琢磨できる環境も生まれやすくなります。
同級生や同期など、スタート地点や立場が一緒という仲間に対してほど、その思いは強くなるもので、一歩でも先んじようと頑張るのが人間というものです。
○○には負けたくない。
負けたら悔しい。
そういった感情がバネになり、さらなる向上心が生まれます。
1人でコツコツ努力するのも大事なことですが、競う相手がいたほうが心も鍛えられ、能力も伸びやすくなります。
負けず嫌いな性格は、ひとつの武器であり、財産でもあるのです。
『鬼滅の刃』で負けん気の強いキャラといえば、真っ先に名前が挙がるのは伊之助でしょう。
(上から目線ながらも)他人を褒めたり認めたりすることができる一方、基本的には自信家で、自己中心的で、自分がナンバーワンでないと気がすまないタイプ。
なにかにつけて、同期や柱たちに対抗意識を燃やします。
炭治郎と一緒にいるときに鬼を見つけたら、自分のほうが先に気づいていたと鼻息を荒くし、機能回復訓練を通じて炭治郎が「全集中・常中」という技を会得していることを知らせると、すぐに自分もできると声を荒げて言い放ちます。
伊之助ほど極端ではないにせよ、炭治郎も典型的な負けず嫌いであり、無一郎に対して「負けてられないぞ!」と思ったシーンは、すでに紹介した通りです。
こうやって、悔しがり、負けたくないという思いが、彼らをどんどん強くします。
ただし、チームとして活動することのデメリットもあります。
まず触れておきたいのは、社会心理学でいう「リンゲルマン効果」。
これは「社会的手抜き」ともいわれ、チームを組むことによってやる気になるどころか、一部の人が「誰かがやってくれるだろう」と100%のパフォーマンスを発揮しなくなってしまう現象です。
当然これでは、チームとしての成果は上がりません。
以前、心理学をテーマにしたあるテレビ番組で、社会的手抜きを検証するためにこんな実験が行われました。
屈強な男性5人を集め、まずは個々にパワー(引っ張る力)の数値を測定。
その後、5人で力を合わせて綱でつながれたトラックを全力で引っ張ってもらい、そのときのパワーを測定したところ、なんと5人とも個々の数値が下がるという結果が出たのです。
「俺が頑張らなくても誰かがやるから大丈夫」という思いが、無意識に1人ひとりにはたらいていたと考えられています。
社会的手抜きは、共同作業になると起こりやすいことがわかっています。
私が大学の授業でグループワークを行うと、なにもしない学生が必ず出てきます。
それも、1人だけではなく何人も。
これがその典型的な例といえるでしょう。
人は共同作業になると、自分に求められる努力量を少なく見積もってしまうのです。
その一方、個人の仕事ぶりがはっきりとわかる単純作業では、社会的手抜きが起こりにくいとされています。
「できればトップを取りたい」「ビリにはなりたくない」という思いが行動に直結しますし、サボっているとすぐにバレてしまうからです。
もうひとつ、大きな問題として取り上げたいのは、負けたり失敗したりしても、悔しがらない若者が増えてきているということです。
人と競うことが行動に対するモチベーションにならない人が多くなってきました。
教育の現場にいると、とくに最近は強く実感します。
負けても失敗しても「スルー」する感じです。
適当にやっていれば適当に生きられる世の中になってしまったからでしょうか。
とにかく意欲や向上心を持たない人が目立つようになってきました。
別に一番じゃなくていい。
カッコイイ車は別にいらない。
家を建てなくてもいい。
結婚はしてもしなくても別にどちらでもいい。
可もなく不可もなしの人生で構わない。
人と比べず、自分は自分だから、と。
その一方で、好きなアニメは観たいとか、応援しているバンドのライブに行きたいとか、そういう欲はあります。
また、損得勘定は持っているので、「これをやらないと損をするな」とわかれば、多少はやる気が出るようですが、それまでで、こうしたいとか、こうなりたいとか、そういう思いはありません。
本当につかみどころがないのです。
意欲や向上心のない人たちはなにが活性剤になるのか?
どうやったら〝やる気スイッチ〟が入るのか?
その答えはなかなか見つかりません。
これが今の私のいちばんの課題であり、社会全体が考えなければいけない問題ではないかと感じてしまいます。
そんな彼らが働き盛りの30代、40代になったら、もしかしたら今とは異なる価値基準の世の中が訪れ、それなりに社会がうまく回っていくのかもしれません。
でも、本当にそれでいいのだろうかと疑問にも感じます。
これはみなさんに声を大にしてお伝えしたいのですが、そういう時代だからこそ、悔しいという気持ちがわきあがってきたら、それを大事にしてください。
できないことがあったり、ゲームやスポーツや勉強で友達に負けたりして、悔しがって泣くようなことがあれば、それは心から喜ぶべきこと。
これからの人生において、とても大切な能力を鍛える貴重な訓練をしているんだと思ってください。
悔しがらずに、「もういいや」と思い始めたら危険信号です。
放っておくと、わくわくすることもドキドキすることもなく、なりたい自分にもなれず、叶えたい夢も叶えられない、達成感もない、つまらない人生になってしまいます。
そんな兆候が見られたら、『鬼滅の刃』を読みましょう。
そして、炭治郎や伊之助の姿を目に心に焼きつけてください。
不可能を可能に、夢が現実になる瞬間を味わいつくす、豊かな人生を歩んでください。
◎〔隊士〕竈門炭治郎(かまどたんじろう)
『鬼滅の刃』の主人公。嗅覚にすぐれている。鬼に襲われた家族のなかで唯一生き残ったが、鬼化してしまった妹を人間に戻すために鬼殺隊の剣士となる。家族思いで心優しい炭売りの少年は、厳しい鍛錬と鬼との戦いを重ねることで、心身ともに強い剣士へと成長する。
【まとめ読み】『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方の記事リスト
登場人物の相関図や説明をもとに主人公から社会を生き抜く心構えを全5章で学ぶ