「なんか自分が損してる気がする...」そんな気持ちになったこと、ありませんか?それは、あなたが相手に「NO」を言えていないからかもしれません。「大切なのは、自分と他人の間の境界線を知って守ること」という鈴木裕介さんの著書『NOを言える人になる』(アスコム)から、すぐに実践できる対処法をご紹介します。
子どもの頃の人間関係の中心は家庭と学校であり、それらは子どもの人格や価値観を形成するうえで大きな影響を与える。
しかし、子どもには親(家庭)や学校を主体的に選ぶことはできないし、厳しい環境の中で自分の心や身体を正しく守る技術も持ち合わせていない。
トランプなどで、最初に配られたカードが不利だと、どうしても不利なゲームを強いられてしまうように、家庭や学校の環境が好ましいものでなかった場合、その人の人生は、環境に恵まれた人に比べて、どうしてもハードモードになりがちだ。
残念ながら、この点に関しては、社会は不公平だと言わざるをえない。
一方、成長し社会に出ると、人間関係の中心は「職場」に移る。
多くの人は、学生生活を終えた後、基本的には就職した会社で「社会人として」生きていくためのルールや技術の多くを学ぶことになるし、平日なら、一日24時間のうち、3分の1以上を職場で過ごすことになる。
職場は、大人になって以降の生活や人生の土台であり、職場の人間関係は、家庭や学校での人間関係と同等か、それ以上に重要だといえるだろう。
だからこそ、職場の人間関係のルールや環境を見直すことは、自分らしく幸せな人生を送るうえで必要不可欠だ。
世の中には、本当の意味で人を大事にしてくれる職場に恵まれ、自分の領域を不当に侵害されることなく、幸せに穏やかに生きられる人もいれば、ラインオーバー(自分の領域と他人の領域を隔てる境界線を侵害すること)を繰り返す経営者や上司、同僚、取引先などによって、自分の領域を侵害され、ときには心や身体、生活、人生を破壊されてしまう人もいる。
親友の自死が僕をメンタルヘルスの世界へ
忘れられないのが、大学時代に苦楽を共にした僕の親友のことだ。
彼は運動部のキャプテンで、成績も優秀で、とても優しくて、他人の魅力に光を当てるのが得意で、彼の周りにはいつも人があふれていた。
本当のリーダーとは彼のようなことをいうのだろうと、僕はひそかに憧れていた。
しかし、大学を卒業し、ようやく医師人生の入口に立った研修医のとき、彼は心身の体調を崩し、自死をとげてしまった。
他の組織同様、医療の現場でも、放っておけば研修医や新人職員など「もっとも弱い立場の人」に負担が集中する。
後から知ったのだが、実は臨床研修医というのは、約3割の人がうつになるほどの、世界共通のハイリスクな仕事だといわれている。
彼に何が起きたのか、なぜこのような環境が放置されてしまっているのか、優しくて善良で、どう考えても幸せになるべき彼のような人間が、なぜこのようなことになってしまったのか。
僕がメンタルヘルスという領域に興味を持った原体験だ。
また、別の僕の女性の友人は、最初に就職した会社で厳しいノルマを課され、心身のバランスを大きく崩してしまった。
彼女の上司は「たとえ99点とっても、100点でなければ0点と同じだ」が口ぐせで、その言葉(ルール)によって、部下たちをどんどん追い込んでいたこともあったそうだ。
当然のことながら、99点は99点であり、決して0点ではない。
「99点は0点と同じ」などというのは、上司が勝手に決めた何の根拠もないルールにすぎず、社会に出るまでは友人自身もそんな価値観は持ち合わせていなかった。
しかし、友人が素直すぎたのか、彼女の脳内には上司のルールがインストールされてしまい、会社を辞めた後もしばらく、それに縛られ悩まされていた。
職場の人間関係は密で影響力が大きく、どのような環境でどのような人とどのような関係を作るかは、その後のあなたの心や生活、人生のあり方を左右する。
ただ、知識や経験が蓄積されている分、大人は子どもよりも、好ましい人間関係を作るための技術を身につけやすいし、職場や働き方は自由に選ぶことができる。
もちろん、全員が希望した会社に入り、希望した部署に配属されるわけではないが、選びようがない親(家庭)や、住んでいる地域、学力、親の経済力や価値観などによって、ある程度決められてしまう学校に比べれば、職場や働き方の選択肢の幅は果てしなく広いといってもいい。
もしあなたが、現在の職場の人間関係や環境、ルールに不快なもの、もやもやしたものを感じているなら、一度きちんと見直し、あなたにとって好ましくない関係性やルールには、少しずつNOをつきつけていこう。
そのうえで、どう頑張っても自分の境界線や領域を守りきれないとわかった場合は、職場自体に対してNOを言う(退職や転職をする)のもありだと、僕は思う。
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