40~50代になって「老後の孤独」が頭をよぎるなら、「心の自立」が足りていないからかもしれません。そこで、「孤独との向き合い方が大切です」という心療内科医の反田克彦さんの著書『孤独を軽やかに生きるノート』(すばる舎)から、「無自覚の寂しさ」への対処法をご紹介します。
普段、「ただいま」と言っていますか?
「いってらっしゃい、いってきます、おかえりなさい、ただいま」があれば、孤独ではないと言った方がいます。
確かにそうです。
玄関を開けるときに、いつも「ただいま」と言える家庭に育つ子供は幸せです。
それが一生続けばいいですが、現代の日本には死ぬまでこの言葉に囲まれて生きることができる人は少なくなりました。
これからますますその傾向が強まっていきます。
妻に先立たれて生きる気力を失った夫。
気楽だったはずの都会の一人暮らしに疲れた若い女性。
行く末に不安を感じる独身の男性。
愛犬を亡くしてうつ病になった年輩の女性。
友だちが別の友だちと仲よくなって一人ぼっちになった中学生。
大勢の方々が孤独を胸に抱えてクリニックを訪れます。
「おかえりなさい」で迎えてくれない部屋に帰るのがスタンダードとなる日は遠くありません。
イヌやネコだけが待つ部屋に戻る日が。
もっともそのイヌとネコたちには人工知能が搭載されているかもしれませんけれど。
孤独にポジティブな意味がない理由
「孤独」という言葉の意味は現在ふたつあります。
「一人でいること」も、「一人を恐れること」も孤独です。
このふたつは本来は別の概念ですが、どちらも孤独と表現されます。
ですが孤独には、「一人を楽しむ」というようなポジティブな意味はこれまでありませんでした。
孤独を尊ぶ習慣がなかったからでしょう。
英語圏でも同じです。
「ロンリネス」は「一人でいることを恐れる気持ち」のことで、「ソリチュード」は「単に一人でいること」を意味する中立的な言葉です。
英語にも一人でいることを楽しむことを意味する単語はありません。
かつて人間は一人では生きていけなかったので、一人でいることを肯定的にとらえる言葉は必要がなかったからでしょう。
一人で自由に生きられてしまうけれど
孤独に対する考え方は時代によって変わってきました。
江戸時代の村八分は死を意味していました。
農村では力を合わせなければお米を作ることはできなかったからです。
孤独な人は生きることができませんでした。
現代は一人でも暮らすことができます。
コンビニがあるので餓死する心配はありません。
お弁当でも、一人用の食材でも簡単に手に入ります。
仕切りによって一人の空間が確保されたラーメン屋さんや焼き肉店も増えました。
一人でカラオケをするのも一般的です。
家から一歩も出なくても通販の商品を宅配業者が届けてくれます。
洋服でも、本でも、日用雑貨でも、お惣菜でも、およそあらゆるものを。
部屋はお掃除ロボットがすみずみまできれいにしてくれます。
フェイスブックに登録してある「友だち」の記事をマメにチェックすれば、「いいね」をお返ししてくれます。
オンラインゲーム上で仲間と協力して敵を倒すこともできます。
生身の恋人はいなくても飛び切り美人な二次元の彼女がいます。
映画「ブレードランナー」で、主人公のアンドロイドの帰宅を出迎えたのがホログラムの彼女で驚いたことがありましたが、これなどはすぐに現実になるでしょう。
今後はますます一人の生活が充実していきます。
もっとも現代はまだ過渡期なので、家族がいないことや、顔を合わせて相談できる友だちがいないことを寂しく思う人も少なくないと思います。
ですがこれからは家族の定義も、友だちの定義も、孤独の定義も変わっていくはずです。
現代の孤独にはポジティブな意味が含まれるようになりました。
他人の思惑に惑わされず、思い通りに自己実現ができるのが孤独のよさです。
そう考えれば、孤独はそう悪いものではありません。
とはいえ、今のところ人々のなかにある「孤独=不安」という考えは根深く、そう簡単には消えません。
私たちは孤独になることに対して、何を潜在的に恐れているのでしょうか。
イラスト/須山奈津希
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