ひょんなことから、街でけがを負わせられた場合、賠償請求などはどのようにしたらいいのでしょうか。弁護士の林 友宏先生にアドバイスしてもらいました。
【相談】
夫が、先日、駅で酔っ払いに絡まれて、肩を強く押された拍子に転んで足を打撲しました。1週間たったいまも通院中です。加害者とは連絡先を交換しているのですが、今後、加害者に対して、何か請求したいです。(女性63歳)
林先生の【お答え】
治療のめどが立った後に、請求額を決めます。警察への被害届も検討しましょう。
さて今回の相談は、けがを負わせた加害者に対する請求です。
まず、ご主人は、加害者に対して、自身が被った損害の賠償請求をすることができます。ご主人がけがを負った状況からすると、損害としては、病院で治療を受けた際の治療費等の実費、けがを理由に勤務先を休んだ場合には、その期間働くことができず、収入が得られなかったことによる休業損害、通院期間に応じて精神的苦痛を償うための通院慰謝料等が考えられます。
ただ、ご主人が現在も通院中ということであれば、現時点では、まだ加害者に請求できる損害額が確定しません。なぜなら、今後も通院を継続することによって、治療費、休業損害、通院慰謝料といった損害額がさらに増える可能性があるからです。そのため、加害者に対して請求できる損害額が確定するのは、ご主人の治療のめどが立った後になります。
次に、これらの損害額の具体的な算定方法は、交通事故を中心とする過去の損害賠償に関する事例の蓄積を基に、ある程度決まっています。もっとも、ご自身でどの程度の損害額になるのか算定することは、一般の方は慣れていないため(そもそも、損害額の算定に慣れている一般の方はいませんよね)、よく分からないと感じると思います。もし、具体的な損害額の算定方 法でお困りの際には、ご主人の治療のめどが立った後に、治療費の領収書等の資料をご持参の上、弁護士など専門家にご相談いただくとよいかと思います。
ここまでは、被害者から加害者に対する損害賠償請求のお話でした。これ以外にも、加害者がご主人にけがを負わせたことは、傷害罪に該当するため、警察に被害届を出したり、告訴をしたりすることが選択肢として考えられます。警察において、これらの届出が受理され、事件性があると判断された場合には、捜査が進み、最終的に裁判所が加害者に対して、罰金等の刑罰を科すことがあります。加害者が刑罰を受けることをご主人が望んでいる場合には、警察にご相談することを検討してみてもよいかもしれません。
特に、今回とは異なり、加害者の所在が分からない場合は、警察の捜査の過程で駅の防犯カメラの映像の確認を行ってもらわないと、加害者を特定することができず、泣き寝入りになってしまう可能性があります。
今後、損害賠償請求をしたり、警察に相談したりする場合、加害者がどこの誰なのか、具体的にどのようなけがを負ったのかを明確にしておくことが重要になってきます。しっかりと加害者の連絡先等所在を把握した上で、医師の診断書や治療費に関する領収書等の資料を大切に保管するようにしてください。
最後になりますが、ご主人の1日も早い回復をお祈りしています。
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林 友宏(はやし・ともひろ)先生
弁護士法人梅ヶ枝中央法律事務所東京事務所所属。企業法務をはじめ、個人から依頼を受けて相続、交通事故、離婚、刑事事件など幅広い案件を担当している。