定年後も夫婦円満で暮らせますか? 熟年離婚を避ける「夫婦不可侵条約」のススメ

老後資金に「2000万円の準備を...」と言われても、すぐに作れる人はなかなかいません。そこで、社会保険労務士歴20年の岡久さんが著した『2000万円もってないオレたちはどう生きるか―60歳からのリアル』(自由国民社)から、老後の不安を解消できる60歳からの生き方のヒントを連載形式でお届け。人生のシミュレーション、今こそやるべきです。

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家族との人間関係をリセットする

熟年夫婦のある夜の出来事――。夫が飲み会から帰宅して着替えながら、雑談中に

「今日はバースデーなのよ、お忘れでしょうけど」(淡々と言う...妻)
「おまえ、いくつだと思ってんだ!」(面倒くさそうに...夫・中略)
「お風呂、湧いてますよ」(妻)
「オレも久しぶりに誕生日のプレゼントでもするかな。何か欲しいものはあるかい?」(夫)
「欲しいもの?」
「そう欲しいもの!」
「そりゃ、あるけど...」(申し訳なさそうに...妻)
「いってみろ、ただし高いものはダメだぞ!」(再び面倒くさそうに...夫・中略)
「そんなに高いものじゃないの。値段は四百五十円ほど」
「四百五十円、何だそれ?」
「ほんとにいいの?私が頂きたいのはこれ!ここに名前を書いて、ハンコをついて欲しいの。四百五十円は戸籍謄本を取るためのお金」(離婚届けを出して渡す...妻)
「何だ、これ」
「離婚届けよ」
「おい、冗談だろ?」(驚き戸惑う...夫)
「本気よ、考えておいてちょうだい」(大まじめに...妻)

これは山田洋二監督の映画「家族はつらいよ」の一シーンですが、もしかすると定年前後の夫婦の"あるある"場面かもしれません。

いくら長年連れ添ったといっても、夫と妻はもともとアカの他人なのですべての人格は理解しがたく、すれ違いが当たり前だということですね。

夫の場合は定年までの人生の主な舞台は職場でしたが、定年後にはそれが家庭に移っていきます。再雇用でも再就職でも、現役の世代とは違って家庭にいる時間が増えていくのです。これまでは「亭主元気で留守がいい」という状態でほとんど家にいなかった人間が、突然、家にいる時間が増えることになります。

普通なら軋轢が起きて当然ですが、ここで夫は家族、特に妻との人間関係を再構築しなければなりません。一歩間違うと、冒頭の映画のように熟年の離婚話につながりかねません。

「自分だけは大丈夫」とうそぶく自信家こそ裏を返せば独りよがりで、いちばん危ないそうですから気を付けてください。

ある調査によると「退職後に夫と毎日一緒に生活するのは耐えられない」という人が四十五パーセント、さらに夫との離婚を考えたことがある人は三割余りで、三人にひとりの割合になっています。また「夫の介護をしたくない」という人も8・5パーセントもいます。

夫側からの調査でも同じような傾向があるのですが、妻側からよりも少ない割合になっています。

よくいわれていることですが、妻は夫が定年後ずっと家にいることに息苦しさを感じて、子どもが自立すると夫婦の絆がなくなると感じるようです。ですから夫側は、何かと気を遣って一緒の趣味を持ったり旅行をしたり、コミュニケーションを取ろうとするのです。

定年前後は"夫婦不可侵条約"を更新する

実はここに落とし穴が潜んでいます。

「これまではチョッとした相談にものってくれなかったのに、急にコミュニケーションと取りたいなんてムシがよすぎる」、「勝手な気遣いや親切の押し売りは迷惑」というのが妻の本音なのです。

無理やりコミュニケーションを取ろうとしても空回りするばかりで、よい関係は築けません。相手の気持ちを汲み取り、直接相談することも大切です。

おそらくいろいろと気を遣って慣れないことをしてみても、長年の関係はなかなか変化するのは難しいでしょう。そのうち夫側はモチベーションが下がって、諦めて元の状態に戻ることになります。

したがって結論からいうと、無理なことは初めからしないこと。これまでの夫婦関係が余程悪い場合は別として、可もなく不可もない生活をしていたのなら、そのままの状態を保ったほうがよいでしょう。

その場合、大切なことは妻との距離を定年前の状態に保つための"夫婦不可侵条約"を更新すること。例えば寝室が別ならそのままにして、好みが違うテレビ鑑賞も別の部屋でするというように、何も変える必要はないのです。

定年後に向けて在宅の場合の昼食はどうするなど、新しく決めごとが必要な時には、まず妻側の意見を聞いてから決めることです。言うまでもありませんが、どうしても我慢できない場合以外は妻側の意見を尊重したほうが円満にいきます。

何事も無理をして変化させようとするから、摩擦が生まれるのです。長年連れ添った夫婦だからこそ、これまで保ってきた微妙な距離感が大切だということを理解しておくとよいでしょう。

それに、夫婦同時に亡くなるのでなければ、どちらかが死ぬと独り暮らしが始まるわけですから、必要以上にベタベタと生活する必要もないのです。

ここでひとつ"定年夫"に対するアドバイスがあります。それは「留守番のできる男になれ」ということです。

歳をとってからの独り暮らしは、家事全般からお金や健康の管理、そして周囲の人たちとの人間関係など、その人の全能力を駆使しないとできません。

今のうちから鍛錬しておけば、いざという時に困らないのです。妻にも面倒をかけず、ボケの防止にもつながるので一石二鳥です。

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岡久(おか・ひさし)

社会保険労務士。シンクタンク岡事務所、ナイン・ヒル・パートナーズ株式会社代表。人材開発や働き方改革から労務管理までさまざまなコンサルティングを手掛ける。社労士歴&コンサル歴20年以上のプロ、関連分野の著書も多数執筆。

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『2000万円もってないオレたちはどう生きるか―60歳からのリアル』

(岡久/自由国民社)

「人生100年時代」と言われても、お金に仕事、住まいに健康と不安が多過ぎる!そんな心のざわつきが止まらないあなたのための現代社会サバイバル本。生活のダウンサイジング法や孤独の楽しみ方など、老後資金に2000万円も持っていない私たちがどう生きるべきか、たくさんのヒントを教えてくれます。

※この記事は『2000万円もってないオレたちはどう生きるか―60歳からのリアル』(岡久/自由国民社)からの抜粋です。

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