ヴァーチャルリアリティで認知症の中核症状を再現
認知症はさまざまな原因で脳の細胞が死滅したり働きが悪くなったりして認知機能などが低下し、生活に支障が出る状態のこと。2025年には700万人が認知症になるという推計も。しかし実際の症状などが分からず、不安な方も多いでしょう。
そこで今回、「VR認知症」というプログラムを『毎日が発見』本誌読者に体験していただきました。
開発したのは、サービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」を運営するシルバーウッド。ディスプレイとヘッドフォンを装着し、コンピューターで合成した映像・音響効果で、目の前に現実のように感じられる3次元の環境を人工的に作り出すVR(ヴァーチャルリアリティ)。VR認知症とは、この技術を使って認知症の中核症状を再現。360度、その場の状況を体感することができます。
体験してくださったのは、介護経験を経て認知症の方に対する自身の対応が合っていたのかと疑問をもつ牧川さん(60代)と、認知症の方と触れ合う機会がなく勉強したいという小野さん(50代)です。
体験したプログラムは3つ。そのうちの2つをご紹介します。
もう1つの体験はコチラへ。
【体験2】
楽器が人に、コードがヘビに...! 幻が見える恐怖を打ち明けられない
友人の家を訪ねると、部屋の隅に知らない人が座ったり消えたり、コードがヘビに見えたり...。でも周囲の人には見えていないようなので、言い出せません。
これは、レビー小体型の認知症に多い幻覚症状を再現しています。
なぜ隅に知らない人が座っているのか不思議に(下の写真中央の、膝を抱えている人)。でも自分にしか見えていないと気付く。
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実は人ではなく、ギターが置いてあっただけ。実物とは別のものに見える症状の一つ。
<体験後の感想>
「周りの目が気になりました。変な人だと思われそうで、状況を言い出せません」(小野さん)
【体験3】
どこの駅で降りる? いつものことが分からない
電車で居眠りをしてしまい、目覚めるとどこを走っているのか、どこで乗り換えるのか分からなくなってしまいます。アルツハイマー型認知症に多い症状の例。駅に降りたものの誰にも聞けず、不安に襲われます。
どこの駅か分からず戸惑う。とりあえず電車を降りることに。
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駅員には、出口を探していると勘違いされてしまいました。
<体験後の感想>
「症状が頻繁に起こることになったら、外出するのも怖くて、引きこもってしまうと思いました」(牧川さん)
認知症の方々が生活に多くの「不安」を抱えているということを知ることができた今回の取材。最後に、体験を終えた牧川さんと小野さんに、体験前と後で認知症に対するイメージがどのように変わったのか伺いました。
「行動の理由が少し理解できたように思います。認知症という状態になっているだけなので、相手の人格を否定しないように、対応に気を付けたいと思います」(牧川さん)
「歩き回る、騒ぐなどとひとくくりで言われてしまう行動にも、一つ一つに意味があるということ、そして認知症の方がたくさん不安を抱えていることが分かりました」(小野さん)
取材・文/中沢文子 撮影/奥西淳二