「病気の名前は、肺がんです」。医師からの突然の告知。しかも一番深刻なステージ4で、抗がん剤治療をしても1年生存率は約30%だった...。2016年9月、50歳でがんの告知を受けた刀根 健さん。残酷な現実を突きつけられても「絶対に生き残る」と決意し、あらゆる治療法を試して必死で生きようとする姿に...感動と賛否が巻き起こった話題の著書『僕は、死なない。』(SBクリエイティブ)より抜粋。過去の掲載で大きな反響があった本連載を、今回特別に再掲載します。
※本記事は刀根 健著の書籍『僕は、死なない。』から一部抜粋・編集しました。
※この記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承の上、お読みください。
【前回】ついに始まった...。抜けた髪の毛と、がんの放射線治療。
放射線治療
6月23日、放射線治療の最終日、治療が終わった後で、斉藤先生の診察室に呼ばれた。
今後のことを話すという。
「放射線治療、お疲れ様でした。脳に関しましてはこれでいったん治療は終了です。おそらく大丈夫でしょう。まあ、実際に腫れが引くまでは2カ月くらいはかかると思います。その間、光が飛んだり視界が歪んだり、そういうことが起こることもありますが、気にしないでください。時間が経てばなくなりますので」
「ありがとうございます」
「で、先日受けていただいた骨シンチの結果が来ておりまして......」
数日前に骨専門のCT検査、骨シンチを受けていた。
斉藤先生はPC画面を僕に向けた。
そこには僕の全身の骨、ガイコツの写真が出ていた。
「えっとね、これ、あなたの全身の骨です。でね、この黒くなっているところがありますね」
斉藤先生はガイコツの黒く写っているところの一つをペンで指した。
「この黒くなっているところが炎症が出ているところです」
「炎症といいますと?」
「おそらく、転移しているがんですね」
僕のガイコツは、素人が見てもわかるほど、黒い斑点が無数にあった。
がんは全身の骨に転移していた。
「こんなにあるんですか......」
「うん、まあ全身だね。頸椎から肩甲骨、肋骨。背骨、腰椎から骨盤、股関節から大腿骨もいってるね。放射線は骨転移にも効くんだけど、こんなに全身に転移していたらできませんね。全身に放射線を当てるわけにもいきませんから」
「はあ、そうなんですか」
「でね、ちょっとお聞きしたいんですけど、刀根さんは足がしびれるとか、そういう症状はありませんか?」
「いえ、ないですけど」
「いや、実はですね、ここなんですけど」
斉藤先生は腰骨のCTの画像を映し出した。
「ここ、腰椎です。この部分、結構大きく転移してます。この転移している部分の下に神経が集まっている箇所がありまして、がんの転移が大きくなると、この神経を圧迫する可能性があります」
「はあ」
「そうなると、急に下半身や足が動かなくなったりすることが考えられます。ですので、私としてはこの腰椎の部分だけでも放射線を当てたほうがいいと思っています」
「そうなんですか」
「まあ、骨転移に効く抗がん剤もありますから、今後は刀根さんのドクターチームの判断になると思いますが、私の所見として、今お話ししたことを報告書に書かせていただきます」
斉藤先生はそう言うと、僕の全身のガイコツ写真をプリントアウトして僕に渡そうとした。
「いえいえ、いりません」
僕は断った。
いくら気持ちが安定しているとはいえ、全身転移で真っ黒になった自分のガイコツ写真を眺めても平気でいられる自信はなかった。
ベッドに戻ってからもしばらく、あのガイコツが頭から離れなかった。
あんなに転移してんのか......。
僕の骨、真っ黒だったぞ。
ホントに大丈夫なんだろうか?
本当に治るんだろうか?
いやいや、先のことなんてわからない。
今、落ち込んでどうするんだ。
今できること、それはいい気分に戻ること。
よし、波の音を聴こう。
ベッドに横になりiPodで波の音を聴く。
まぶたの裏に浜辺が出現する。
光り輝く太陽、打ち寄せる波......暖かな海が足元を満たしていた。
ああ、気持ちいいなー。
僕は再び至福に満たされた。
至福から戻った後、あのガイコツ写真に囚われることはなくなっていた。
僕はまた、あの根拠のない確信に戻っていた。