"介護の初動"は会社の制度を使って乗り越える/介護破産(21)

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介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。実は介護破産の原因には、単に資産の多寡だけでなく、介護に関する「情報量」も大きく関わってくるのです。
本書「介護破産」で、介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法を学んでいきましょう。

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前の記事「育児と介護の家族を支える職場の制度を片っ端から使う/介護破産(20)」はこちら。

 

介護に関する社内制度はないか?

労働者の6割強の人が勤めている中小企業でも、介護と仕事との両立に取り組む企業が増えている。意思決定のスピードが早いという中小企業の利点を活かして介護離職防止に取り組むのは、不動産・建築業のNENGO(神奈川県川崎市)。社員数45人で平均年齢は35歳。さまざまな社内制度のなかに、2015年4月から設けた「介護相談制度」がある。

的場敏行社長がいう。「採用の面接をしていたとき、前職を親の介護で辞めたという50代の男性がいました。今後もこういう立場の人は増えると実感し、再就職先の受け皿として、親の介護をしながらでも働ける環境を整えたいと思いました。ただ、介護に直面したスタッフの困り事に対して的確なアドバイスをする相手がいないと、相談はできても先に進みません。部門長や人事担当者に介護の経験者がいなかったので、外部の専門家に相談するシステムをつくりました」

現在、この制度を利用しているのは、20代の女性。大学3年のときに母(56歳)が脳梗塞で倒れた。記憶障害が残り、要介護1認定。自宅に戻ってから訪問リハビリと家事支援の訪問介護を受けていたが、容体は安定せず、認知症のような症状も出はじめた。NENGOの面接では「親の介護をしている」と伝えて入社した。「父や兄とも時間がすれ違い、コミュニケーションがうまく取れない時期がありました。母はまだ若いので、高齢者が多い介護施設には行きたがらない。なんとか家族で支えなくてはいけないと気負ってしまい、仕事でも成果もあげなければならないと、自分を追い込んでしまいました」(20代の女性)

社長の助言もあり、入社してすぐに「介護相談制度」を利用することに。直属の上司と人事担当者にその旨をメールで伝えると、ワーク&ケアバランス研究所につながる。必要に応じて同研究所の和氣美枝さんが面談に応じるというシステムだ。「はじめて母のシモの世話をしたとき、まだ受け止めきれず、出社してから『母の調子が悪くて、私もしんどい。どうしたらいいのかわからないので相談したい』とメールで伝えて、和氣さんと職場の近くの喫茶店で話をしました。胸につかえている思いを全部吐き出してから、ケアマネジャーにどんな要望を出したらいいのか、父と兄とはどう役割分担をしたらいいのか、具体的なアドバイスをもらい、とても楽になりました」(20代の女性)

グループホームなどの施設に入所するときに備えて女性は仕事に専念し、代わりに父と兄が母の面倒を看る。体調の悪いときなどは、家族が臨機応変に対応するなど、役割分担を変えてみたところ、女性は仕事に集中できるようになったという。

このように〝介護の初動″を会社の制度を使って上手に乗り越えれば、会社を辞めなくても済む。和氣さんは自らの経験を活かして企業へのアドバイスや相談を行う一方で、2016年1月、「介護しながら働くことが当たり前」の社会をつくろうと、一般社団法人「介護離職防止対策促進機構」(東京都渋谷区)を立ち上げ、代表理事に就いた。

半年に一度、都内でシンポジウムを開催。仕事と介護の両立に取り組む企業の具体的な事例を発表している。介護離職防止のために企業としてまずやるべきことは、「従業員の介護状況の把握」だと和氣さんはいう。「職場で介護の話をすると昇進や査定に響くと危惧するあまり、抱え込んでしまいがちです。現状を伝えても大丈夫、閑職に追いやらないなどと明言することが大事です。そして、経験者は職場で介護に関して貴重な情報源になれます」

実際に、人事担当としてアドバイスする側にまわるなど、介護の経験を活かして社内で活躍する人も増えている。介護を乗り越えた先に活躍できる時代は、すぐそこまで来ている。

  

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結城 康博(ゆうき・やすひろ)
淑徳大学総合福祉学部教授。1969年生まれ。社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー。地域包括支援センターおよび民間居宅介護支援事業所への勤務経験がある。おもな著書に『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から 』(岩波新書)、『孤独死のリアル』(講談社現代新書)、『介護入門 親の老後にいくらかかるか? 』(ちくま新書)など。

村田くみ(むらた・くみ)
ジャーナリスト。1969年生まれ。会社員を経て1995年毎日新聞社入社。「サンデー毎日」編集部所属。2011年よりフリーに。2016年1月一般社団法人介護離職防止対策促進機構(KABS)のアドバイザーに就任。おもな著書に『書き込み式! 親の入院・介護・亡くなった時に備えておく情報ノート』(翔泳社)、『おひとりさま介護』(河出書房新社)など。

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『介護破産』
(結城 康博、村田 くみ/ KADOKAWA)

長寿は「悪夢」なのか!? 介護によって始まる老後貧困の衝撃!
介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。本書では現在介護生活を送っている人々の生の声をルポしつつ、介護をするにあたり知っておきたいお金のこと、法律面のことなどに言及。介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法論を記した一冊です。

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