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介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。実は介護破産の原因には、単に資産の多寡だけでなく、介護に関する「情報量」も大きく関わってくるのです。
本書「介護破産」で、介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法を学んでいきましょう。
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前の記事「高齢夫婦無職世帯の家計は毎月5万円以上の赤字/介護破産(4)」はこちら。
"持ち家"が足かせになる
「首から上は元気なんだけどね」と笑うのは、埼玉県に住むスミコさん(仮名、79歳)。
60代でリウマチにかかり、10年前に頚椎(けいつい)の手術を受けた。歩行が困難で買い物を含めて家事のほとんどは夫(80歳)が行なう。「トイレが近くて夜中に何度も起きるのが嫌で、あまりお水を飲まなかったら去年の夏に熱中症になりかけちゃって。猛暑日が続いても電気代がもったいないから、クーラーをつけなかったのが、よくなかったのかもしれないね」
節約するのにはワケがある。夫との年金は二人合わせて約15万円。持ち家なので家賃はないが〝老後″のために生活費を抑えて少しでも貯金に回している。「今はね、杖だけでは歩けないので夫の手を借りてやっと歩ける状態なのよ。介護保険のサービスを使おうとするとお金がかかるので、何も使っていないし、介護認定を受けたこともないね。かかりつけ医に勧められたことはあったけど、断ってしまった」(スミコさん)
かかりつけ医が長年の見地から推測したところ、スミコさんは「要介護2」程度。しかし、介護サービス1割負担の分、約2万円を工面するのは厳しいという。しかも、スミコさん自身、デイサービスに通うのは、「自分より年上のお年寄りたちばかりがいる」と嫌がった。家のなかに他人が入るのを嫌がり、ホームヘルプ(訪問介護)も頼みたくないという。
夫婦に子どもはいない。夫はまだ一度も大病を患ったことはないというが、すでに80代。いつまでもこのままの生活が続くとは思っていない。「万が一、夫が私よりも先立つようなことがあったら、どうしよう......」
スミコさんの苦悩は尽きない。〝最後のセーフティーネット″といわれる生活保護は、生活に困った人のための救済措置。2017年3月、厚生労働省の発表によると、生活保護を受けた世帯は2016年12月で164万205世帯となり過去最多を更新した。世帯別でみると65歳以上の高齢者世帯は半数強の83万8386世帯。このうち単身世帯は9割強の76万628世帯だった。
生活保護受給の条件は、(1)現在手持ちのお金がわずかな状態、(2)すぐに現金化が可能な資産を持っていないことなどだ。単身世帯に支給される保護費は、東京23区で月13万円程度。所持金が13万円を下回っていれば、受給の対象になる。また、(2)の現金化可能な資産については、自宅、車、保険などが対象とされている。
例外もあるので詳しい情報は住む自治体の社会福祉事務所に確認をする必要があるが、一般的に持ち家は資産と見なされるので、低年金でも持ち家があると生活保護が受けられない。前出のシンジさん一家や、スミコさん夫婦は、生活に困窮していても生活保護の対象外になる。
次の記事「生活保護を受けていれば認知症になっても福祉につながる/介護破産(6)」はこちら。
淑徳大学総合福祉学部教授。1969年生まれ。社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー。地域包括支援センターおよび民間居宅介護支援事業所への勤務経験がある。おもな著書に『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から 』(岩波新書)、『孤独死のリアル』(講談社現代新書)、『介護入門 親の老後にいくらかかるか? 』(ちくま新書)など。
村田くみ(むらた・くみ)
ジャーナリスト。1969年生まれ。会社員を経て1995年毎日新聞社入社。「サンデー毎日」編集部所属。2011年よりフリーに。2016年1月一般社団法人介護離職防止対策促進機構(KABS)のアドバイザーに就任。おもな著書に『書き込み式! 親の入院・介護・亡くなった時に備えておく情報ノート』(翔泳社)、『おひとりさま介護』(河出書房新社)など。
(結城 康博、村田 くみ/ KADOKAWA)
長寿は「悪夢」なのか!? 介護によって始まる老後貧困の衝撃!
介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。本書では現在介護生活を送っている人々の生の声をルポしつつ、介護をするにあたり知っておきたいお金のこと、法律面のことなどに言及。介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法論を記した一冊です。