森永卓郎さんが考える「高齢期の理想のライフスタイル」

定期誌『毎日が発見』の森永卓郎さんの人気連載「人生を楽しむ経済学」。今回は、「理想のライフスタイル」についてお聞きしました。

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野菜、電気...
必要な物は自分で作る

新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2年半前から、私は将来、特に高齢期のライフスタイルについてずっと考えてきました。

条件は三つあります。

(1)地球環境にやさしく、エネルギー高騰など国際情勢に振り回されないものであること、(2)年金給付がいまより4割減っても生活できること、(3)心身ともにストレスがなく、楽しい暮らしができること、の三つです。

3番目の条件は特に重要です。

残された人生は、たかだか20年ほどしかないのですから、それを苦役で埋めるのは、もったいないと思ったのです。

その条件を満たすために、私が考え抜いて出した結論は、「自産自消」でした。

家の近くの耕作放棄地を借り、自分で消費する野菜の大部分を自分で作ることにしました。

農薬は使わず、肥料もできるだけ堆肥を使うことにしました。

私が耕作している畑には、刈り取った雑草や落ち葉を積み上げている場所があります。

積み上げてから1年もたつと、それが立派な堆肥になります。

それを畑に戻すのです。

地球環境への負荷は一切ありません。

そして、この2年間の経験で、30坪ほどの畑があれば、家族が食べるのには十分な量の野菜が収穫できることが分かったのです。

ちなみに耕運機などの農業機械は使っていません。

鍬一本で畑を耕していると、よい運動になり、健康づくりにも寄与してくれます。

さらに農業は生きがいにもつながります。

それは、農業が知的な作業だからです。

畑にはさまざまな敵が襲ってきます。

雨、風、病気、虫、カラス、タヌキなどです。

それらの敵と創意工夫で戦い、最後の収穫まで持っていけたときの喜びは、何物にも代えられません。

農業は楽しいのです。

私が二つ目に取り組んだのは、太陽光発電です。

実は、我が家は築30年以上のオンボロなので、屋根の上に大規模なパネルを張ることが難しく、別の場所でやっているのですが、消費電力よりも大きな電力を発電しています。

自宅には、災害時用の電力のために、小さな発電パネルを用意しました。

これで災害による停電が起きたときも安心ですし、電気代を支払わなくてよいということは、老後の家計収支を大きく改善します。

本当は、井戸を掘って水を確保しようともしたのですが、業者に調査してもらったら、我が家の直下は、100m掘っても水が出るかどうか分からないとのことだったので、残念ながら、それは断念しました。

こうした「ひとり社会実験」によって、年金給付が今後大きく減っても、一生暮らしていける目途がつきました。

ただ、こうしたライフスタイルは、私自身で編み出したものだと思っていたのですが、実は、もう300年も前の江戸時代から、これに近いライフスタイルが存在していたことが、最近分かりました。

近所にあった土地活用の理想的な形

私の住んでいる所沢市の北部に、三富(さんとめ)新田という場所があります。

上富、中富、下富というこの三富新田を中心として、川越市、所沢市、狭山市、ふじみ野市、三芳町の5市町にまたがる約3200ヘクタールの地域は、三富地域と呼ばれています。

ここは、江戸時代の元禄年間に、江戸から開拓民が移住した地域で、新田開発にあたり、間口72m、奥行き675mの細長い土地が、開拓民ごとに割り当てられました。

5町歩、1万5000坪の土地です。

いまでも、その区画が一部で残されているのですが、区画の構造は、奥に2割の平地林、真ん中に5割の農地、そして手前に3割の屋敷地が配されています。

平地林は、薪の採取地として、あるいは落ち葉を用いた堆肥づくりの場所として、木材の供給源として利用されていました。

循環型農業どころか、循環型のライフスタイルが、江戸時代の知恵として、すでに実践されていたのです。

最近、三富地域を改めて訪問する機会があり、愕然としたことがあります。

それは、屋敷があって、畑があって、その奥に平地林があるという土地利用の構造が、いま私が耕作している畑の構造そのものだったのです。

奥に柿の林があり、落ち葉は堆肥になっています。

地球環境保護だとか、生き甲斐の確保とか、そんなことを考えながら私がひねり出した理想形は、実はとっくに江戸時代から行われてきたことだったのです。

ただ、そのことは、私の考えた理想のライフスタイルが、実現可能であることを示しています。

新型コロナの流行は、大変な惨禍をもたらしましたが、同時にリモートワークの普及や遠隔診療のスタート、そしてネットショッピングの進化をもたらしました。

また、今後確実に見込まれる人口減少は、結果的に一人の日本人がより多くの土地を利用できるようになることを意味します。

そのことは、これまでのような都市部に住まなければならないという常識を覆すことになります。

私たちは、自分の好きな環境のよい地域に住むことが可能になるのです。

それを利用しない手はないでしょう。

 

森永卓郎(もりなが・たくろう)

1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て現職。50年間集めてきたコレクションを展示するB宝館が話題。近著に、『長生き地獄にならないための 老後のお金大全』(KADOKAWA)がある。

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『なぜ日本経済は後手に回るのか』

(森永 卓郎 森永 康平/KADOKAWA)

新型コロナウイルス感染症によって生じた日本経済の失速。その原因は長年続いている「官僚主義と東京中心主義」にあると、森永さんは分析します。では今後どうすれば感染拡大を抑え、経済的苦境を脱することができるのか――。豊富な統計やデータを基に導き出された、未来への提言が記された一冊です。

この記事は『毎日が発見』2022年12月号に掲載の情報です。

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