「手」はその人の年齢を、そして人生を表す...自分を慈しむ「手のケア」をしませんか

50代になると頭によぎる「終わり」の迎え方。人生の後半について、作詞家で作家の吉元由美さんは、「これからがクライマックス」と言います。今回は、著書『エレガントな終活』(大和書房)から、吉元さんが考える「50歳からの女性の生き方」のエッセンスをお届け。これからの人生が幸せになるヒントが散りばめられています。

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手はその人の人生を語る

まだ三十代の頃、ある人が私のプロフィール写真を見てこう言ったそうです。

「手に年は隠せないわね」

そのことを人づてに聞き驚きました。

年を隠せない手をしている自分に驚いたわけではなく、そんなことをわざわざ伝えてきた人に驚いたのですが......ふと手を見てしまいました。

それ以来、自分の手を眺めることが多くなりました。

パソコンを使って原稿を書いているので、キーボードを叩きながらいつも手を目にしています。

「手に年は隠せない」と言われてから二十五年が過ぎ、その頃より丸みを帯びた手になりました。

指輪のサイズもひとつ上がりました。

そしてときどきびっくりするほど皺っぽく見え、思わず手を止めてしまいます。

はあ、こんな手になってしまった......と、慌ててハンドクリームを塗るのです。

手は働き者です。

八十歳を過ぎて寝たきりになってしまった母の手を、よく握ったり、さすったりしたものです。

年相応に皺はあるものの、爪の色も形も美しく、指はすっとしていて、しっとりとしている。

ただ、元気な頃と違うのは、手が少し冷たい。

そんな母の手を握りながら、この手で私を抱き上げ、この手で食事を作り、ときにはこの手で涙を拭いたこともあったかもしれないと、思わずにはいられませんでした。

手は、人生そのものを語るようです。

苦労が多くても美意識を大切に生きた母の人生がそこにありました。

身体が不自由になってからも丁寧に手を洗い、優しく手を拭いていた姿を思い出します。

あるとき、ふとした瞬間に友人の手を見てハッとしたことがありました。

ダイエットをして痩せたこともあったのかもしれませんが、皺が目立ち、老人のような手をしていたのです。

その頃、友人は家族との間で問題を抱えていて、心労が続いていました。

その手を見て、ああ、彼女は苦労をしているのだなあとせつない気持ちになりました。

また、赤ちゃんを育てている若いお母さんの手を見るとまだ少女のようで、これからこの手で子どもを育て、家族を支えていくのだなあと感慨を覚えます。

娘は女の子らしい華奢な手で重いトランクを持って、十五歳でアメリカへ行ってしまいました。

小さい頃、いつも手をつないで歩いていたので、娘は安心して手を離して行けたのだと思います。

あの華奢な手で、新しい扉を開いたのです。

手はその人の人生を語ります。

女性には男性とは違った身体のサイクルがあります。

仕事をし、結婚し、出産、子育て......。

食事を作り、掃除、洗濯をし......。

女性の「手」はとても忙しいのです。

子どもが自立したとき。

長年勤めた会社を退職したとき。

いよいよ自分を中心にした人生が始まります。

さあ、そんなとき、自分の手を見てみましょう。

お手入れをしていたつもりでも、乾燥していたり、節くれ立っていたり、皺っぽかったりしていませんか?

水仕事をしてきて、包丁で何度も指を切り、重たいものを運び、土仕事をし、暑さにも寒さにも晒されてきた手。

愛する人を抱きしめ、愛するものを慈しんできた手。

たとえどんな手をしていても、共に生きてきたその手を愛しく思います。

若い頃と比べても仕方がない。

嘆いても仕方がない。

そこにも物語があるのだと思える寛容さを身につけたい。

目に見える美しさだけが美しさではないと言えるのは、人生の深みを感じ始めたからこそ、です。

平原綾香さんが歌った『Jupiter』の中で、「私のこの両手で何ができるの?」と書きました。

この詞の中でこれまでの人生を語ると共に、この手は何を与えてきたかということについても表したかったのだと最近気づきました。

ゆっくり、丁寧に手と指のケアを

手が人生を語るのなら、これからこの両手をどのように使っていきましょうか。

どんなことに使おうと、やはり美しくありたい。

皺々になっていくかもしれませんが、しっとりと柔らかい皺を刻んでいきたい。

そのためにも美しい手でありたい。

先日、ハンドクリームの効果的な塗り方をテレビで紹介していました。

そのやり方を試したところ、しっとり透明感が出てきたような気がします。

最初に手を温めます。

お湯に手をつけて温めても、ホットタオルでも。

水分を拭き取り、すぐに化粧水をつけ、馴染ませます。

それから手のひらにたっぷりとクリームをとる。

両手を合わせてクリームを温め、次に手の甲に塗る。

そのときに、縦方向(指の方向)へ塗るのではなく、手の甲に直角に、反対側の手で包み込むように馴染ませていきます。

強く擦り込むのではなく、優しく優しく。

この塗り方が、しっとり透明感を出している感じがします。

そして指も包み込むように、指と指の間、爪の周りにもまんべんなく丁寧に塗ります。

私はパソコンで原稿を書きながら、合間にこのようにクリームを塗るようにしています。

ほっと一息の時間です。

丁寧にハンドクリームを塗っていると、愛しさが湧き上がってきます。

いつもありがとう、と感謝の想いも湧き上がります。

忙しい中でハンドクリームを塗るささやかな時間は、自分を大切にする、自分を愛する時間になります。

そう、手が人生を語るなら、手を慈しむことは人生を慈しむこと。

手だけに限らず、顔も身体も慈しむように。

それは美容や健康のためだけでなく、身体と心をひとつにすることでもあります。

心穏やかでいるために、日々の生活の中に取り入れてみてください。

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杏里、松田聖子、中山美穂などのアーティストに作詞を提供する著者が、50代の女性へ贈る幸福論です

 

吉元由美(よしもと・ゆみ)

1960年、東京都生まれ。作詞家、作家。洗足学園音楽大学客員教授、淑徳大学人文学部表現学科客員教授。成城大学文芸学部英文学科卒業。1984年、作詞家デビュー。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、石丸幹二、加山雄三ら多くのアーティストの作品を手掛ける。エッセイストとしても幅広く活動し、著書多数。

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『エレガントな終活~50歳から、もっと幸せになる~』

(吉元由美/大和書房)

仕事、パートナー、老親、子どもとの関係が激変する女性の50歳。この先の人生に必要なことは、大切にしたいことを「取捨選択する」ことです。自分を愛し、より自由で幸せな女性になるために、50歳となった今からできる新しい「終活」を提案しています。

※この記事は『エレガントな終活~50歳から、もっと幸せになる~』(吉元由美/大和書房)からの抜粋です。

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