がんが気づかせてくれた...。がんになる前の僕の「歪み」/続・僕は、死なない。(36)

「50歳での末期がん宣告」から奇跡の生還を遂げた、刀根健さん。その壮絶な体験がつづられた『僕は、死なない。』(SBクリエイティブ)の連載配信が大きな反響を呼んだため、その続編の配信が決定しました! 末期がんから回復を果たす一方、治療で貯金を使い果たした刀根さんに、今度は「会社からの突然の退職勧告」などの厳しい試練が...。人生を巡る新たな「魂の物語」をお届けします。

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順調な日々

5月になってから、僕の仕事は順調に入ってきていた。

以前会った後輩が紹介してくれている仕事も、どんどん入ってきた。

その仕事は連泊での宿泊が多く、妻が「あまり無理しないでね」と心配するほどのボリュームだった。

つくば、鎌倉、千葉、青森、仙台...。

僕は研修に行くたびに、その場所の名産品をお土産で買って帰った。

それが楽しみの一つになっていた。

やっぱり、仙台の『萩の月』や『かもめのたまご』はおいしいのだ。

前の会社からの依頼も少ないながら、いくつかあった。

やはり、あの心配は杞憂だった。

僕は森の中にひとりで放り出された農民ではなかった。

僕は森の中を自由に遊びながら歩いている狩猟採取民だった。

集合意識が切り替わったせいか、あるいは"流れ"に乗っているからなのか、わからなかったけれど、僕が仕事に困ることはなかった。

研修の中で話す内容も、がんになる前と後では変化していた。

僕の研修は、主にコミュニケーションやリーダーシップ、メンタルヘルスなどの集合研修だけれど、そのベースとなるものは心理学、TA(Transactional analysis/交流分析)という理論だ。

これはエリック・バーンという精神科医が開発したもので、"自我/エゴ"がどういうふうに作られるか、そしてその"ゆがみ"やパターンがコミュニケーションや人生においてどんな影響をあたえ、どんな人生を作り出すのかを、理論的に分かりやすく分析して解説したものだ。

僕はがんになる前からこのTV|A(Transactional analysis/交流分析)の研修をしていたのだけれど、がんにならないと分からなかったことが、たくさんあったことに気づかされた。

まあつまり、よく分かっていなかったってことだ。

人の心はタマネギみたいに多重構造じゃないかと思う。

僕の"怒り"の下に"悲しみ"があり、その下に"愛"があったように、人の心は幾層もの層になっているんじゃないだろうか。

僕はちょっとばかり心理学を勉強したことで、それをあたかも全て知っているような気になり、"先生"とか呼ばれていい気分になっていた。

まったく、お笑いぐさだ。

"知ってるつもり"は、一番"分かっていない"んじゃないだろうか。

少なくとも、僕はそうだった。

そういう自分が今は恥ずかしく感じる。

僕は自分の持っている心理学の知識で誰かを助けようとか、誰かを援助しようとか、そんなふうに思っていた。

しかし、今は分かる。

そんなのは『優越感』という"自我/エゴ"の最も陥りやすいパターンだったんだ。

僕は今までも愚かだったし、今も愚かだ。

それが"僕"。

"自我/エゴ"は愚かは嫌だから、鎧を着たがる。

僕の場合、それが『心理学』や『ボクシング』だったというわけだ。

そういうもので『優越感』や『やっている感』を感じることで、空っぽな自分、ダメな自分を感じないように一生懸命頑張ってきたのががんになる前の僕で、それに気づかせてくれたのが『がん』ということだ。

『がん』ちゃんありがとう。

おかげで少しはましな人間になったよ。

愚かな自分だから、全てを受け入れることが出来る。

知らない自分だから、判断したり分析したりしないで、新鮮な気持ちで聞くことが出来る。

"愚か"最高、"愚か"素晴らしい。

自分が"愚か"であり"アホウ"だということを知ること。

それは最強の"アホウ"。

僕は歪んでいた。

それに気づいていなかった。

だから病気になった。

簡単なことだ。

それを気づいた今だからこそ、話せることがある。

そういうことを研修の中では話すようになった。

特にストレスマネジメントの研修では、僕のがんの体験がそのまま研修の内容になった。

なぜ、がんになるか、なぜ、ストレスを感じるのか、ストレスを感じると身体はどう変化するのか、そしてその変化がなぜがんや病気を作り出すのか...。

僕ががんと向き合ったことで得た経験や知識が、そのまま研修の内容になった。

そしてそれを聞いている人にとっても、目の前で体験した人がそれを話している、ということで、とてもインパクトのあるものになったようだった。

こういうところにも、僕のがん体験が役に立って嬉しい。

僕の話を聞いていただいた人が、一人でも将来的に病気やがんになることを避けられれば、僕ががんになった意味もあったというものだ。

【次のエピソード】愛するひとの死と、病気の絶望。試練を乗り越えた友人の姿に...僕は、泣いた。/続・僕は、死なない。(37)

【最初から読む】:「肺がんです。ステージ4の」50歳の僕への...あまりに生々しい「宣告」/僕は、死なない。(1)


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50歳で突然「肺がん、ステージ4」を宣告された著者。1年生存率は約30%という状況から、ひたすらポジティブに、時にくじけそうになりながらも、もがき続ける姿をつづった実話。がんが教えてくれたこととして当時を振り返る第2部も必読です。

 

刀根 健(とね・たけし)

1966年、千葉県出身。OFFICE LEELA(オフィスリーラ)代表。東京電機大学理工学部卒業後、大手商社を経て、教育系企業に。その後、人気講師として活躍。ボクシングジムのトレーナーとしてもプロボクサーの指導・育成を行ない、3名の日本ランカーを育てる。2016年9月1日に肺がん(ステージ4)が発覚。翌年6月に新たに脳転移が見つかり、さらに両眼、左右の肺、肺から首のリンパ、肝臓、左右の腎臓、脾臓、全身の骨に転移が見つかるが、1カ月の入院を経て奇跡的に回復。現在は、講演や執筆など活動を行なっている。

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『僕は、死なない。 全身末期がんから生還してわかった人生に奇跡を起こすサレンダーの法則』

(刀根 健/SBクリエイティブ)

2016年9月、心理学の人気講師をしていた著者は、突然、肺がん告知を受ける。それも一番深刻なステージ4。それでも「絶対に生き残る」「完治する」と決意し、あらゆる代替医療、民間療法を試みるが…。当時50歳だった著者の葛藤がストレートに伝わってくる、ドキドキと感動の詰まった実話。

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