最強の老後資産作りは「夫が家事と育児をやること」/一生お金に困らない(6)

将来の不安を感じさせる「お金」の問題。そんなお金に人生を振り回されないためには、「知恵が必要」だと経済コラムニストの大江英樹さんはいいます。そこで、大手証券会社で長年にわたり個人の資産運用業務に携わってきた大江さんの著書『いつからでも始められる 一生お金で困らない人生の過ごしかた』(すばる舎)から、将来の不安をなくせるお金に関する知恵と備えるべき年代別ポイントを連載形式でお届けします。

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生涯年収を考える

本節のタイトル「最強の老後資産作りは『夫が家事と育児をやること』」を見て「おや?」と思った人は多いと思います。

なぜなら「老後資産作り」と「夫が家事をやる」というのは、一見すると何の関係もないように思えるからです。

このタイトルで言いたいことは「老後生活のための資産作りをするのであれば、夫婦で共働きが最強である」ということなのです。

ところが、それを実現するには、夫が家事や育児をしないと不可能です。

結果として夫婦が「稼ぎ」も「家事・育児」も互いに協力しながらやっていくことが、これからの「不確実な将来」に備える最も合理的な方法であり、かつ、最も基本的な方法だというのが私の考えです。

夫婦共働きが最強であるのは三つの理由があります。

まず最大の理由は言うまでもなく「収入」それも「生涯年収」が大きく増えることです。

「労働政策研究・研修機構」が2019年に出した資料(*1)によれば、大卒で正規社員の場合、男性の生涯賃金は平均で約2億6000万円、女性では約2億1700万円となっています。

(*1)「ユースフル労働統計2019」(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)

夫婦がともに正規社員で働いた場合と、夫一人が働いて妻が専業主婦になるケースと比べると2億円以上差がつくことになります。

これは大卒の場合ですが、高卒であっても、男性が2億1100万円、女性は1億5000万円ですから、合計すると3億6100万円ですので、大卒の夫と専業主婦の妻という家庭よりも1億円以上多くなります。

この金額はいずれも退職金は含まれていませんし、60歳まで働いた場合の金額です。

したがって、昨今のように60歳を過ぎても働くようになると、退職金も含めた総額の差はさらに大きくなると考えるべきでしょう。

ここで重要なのは、妻も正社員で働くということです。

昨今、夫婦共働きは増えていますが、多くの場合、妻はパート勤務で働くことが多く、夫の社会保険の被扶養者となるべく、あえて年収を一定金額以下に絞って働いていることが多いのです。

もちろん、俗に言う「103万円の壁」や「130万円の壁」(*2)の水準ギリギリであれば、その範囲内に収めることが得かもしれませんが、次に述べる年金などのことも考慮すれば、「壁」など意識せず、大いに働いて稼ぐべきなのです。

今後はわが国でもますます女性活躍推進の流れが出てくるでしょうから、積極的に正社員として働くことを目指すべきだと思います。

(*2)年収が103万円を超えると、超えた額に対して自分で所得税を納めるようになります。また、「正社員が501人以上/収入が月88,000円以上/雇用期間が1年以上/所定労働時間が週20時間以上/学生ではない」の規模に当たらない範囲でパートやアルバイトをし、年収が106万円を超えると自分で国民年金と国民健康保険(社会保険)に加入することになり、ひと月あたり約3万円、年間にすると約36万円の社会保険料の負担になります。ただし、年収が130万円までなら配偶者の扶養範囲となります。

年金にも大きな影響が...

二つ目の理由は年金です。

夫婦で働く場合とそうでない場合は、将来受取る年金の金額にも大きな影響が出てくるのです。

厚生労働省が発表している令和2年度の年金額改訂によるモデル年金額は夫婦二人の場合で22万724円となっています。

これは妻が専業主婦で夫が標準報酬月額43.9万円で40年間働いた場合の金額として計算されています。

では、単身者の場合はどうかと言えば、男性が約15万6千円、女性は12万7千円が平均となっています。

したがって夫婦共働きの場合は、この金額を合計すれば28万3千円になります。

妻が専業主婦の場合の22万724円と比較すれば、月額で6万円あまり増えることになります。

2019年に話題となった「年金2000万円問題」は、65歳から30年間生活した場合に2000万円足りないという計算をしていますが、もし夫婦で共働きの場合、その金額は専業主婦家庭に比べて2160万円増えることになりますから、何の問題もありません。

さらに60歳以降も働くことによって、厚生年金の加入年数が増えますから、当然、年金額も増えることになります。

ただし、仮に60歳以降は非正規雇用で厚生年金に加入しない場合、年金額は増えませんが、その場合でもかなり収入は多くなります。

現在、60歳以降も働いている男女は多いのですが、総務省の国勢調査によれば、サラリーマンで60歳以降も働く場合、引退する年齢は男性が68.8歳、女性は66.2歳となっています。

60歳以降に非正規、フルタイムで働いた場合、賃金の合計は男性の場合、退職金を含めると4000万円となっています(前述の統計より)。

女性についてのデータは載っていませんが、そもそもの生涯年収が低いので退職金は男性よりもかなり少ないと考えるべきでしょうし、引退する年齢も男性より早いということを考慮すれば、男性の半分2000万円ぐらいではないかと推測します。

それでも合計すれば6000万円ですから、かなりまとまった金額になりますので、「夫婦共働き」で「長く働く」のが最強の老後資産形成であることは間違いありません。

リスクコントロール

夫婦共働きが最強である三つ目の理由は「リスクコントロール」にあります。

今回のコロナ禍では、多くの飲食業や観光業が閉店や廃業に追い込まれました。

私の知人の中にも解雇されてしまった人が何人もいます。

つまり今回のような突発的な災いによって突然職を失うということは十分あり得る話なのです。

「不確実な未来」ということが今回ほど実感できたことはなかったような気がします。

今後コロナの感染が収まったとしても、急に以前の経済活動に戻るかどうかは不明ですから、ここからさらに厳しい経営状況の企業や、破綻する商店は出てくるだろうと思います。

そんな時代にあって、収入源が一か所しかないというのは、やはりリスクだと考えるべきでしょう。

サラリーマンといえど、突然職を失うということは十分あり得る話です。

収入を一か所に限らないという意味で副業はとても重要でしょうが、やはり夫婦が別々の仕事を持つ、それも異なる業種や職種の仕事を持っていることが大切でしょう。

仮にどちらかが解雇され、失業してしまったとしても、一方が働いていれば、その間、なんとか生活をしのぐことができるからです。

その間に次の仕事を探せば良いのです。

まさに「夫婦共働き」というのは最大のリスクコントロールであると言っても良いでしょう。

注意しておくべきこと

このように(1)生涯年収、(2)退職金や年金額、(3)リスクコントロールの面で夫婦共働きは最強と言えますが、生活というのは経済的な側面だけ考えれば良いというわけではありません。

家事や育児の負担は共働き家庭にとって、決して軽視することができません。

だからこそ本稿のタイトルにあるように、「夫が家事や育児をすること」は極めて重要なことなのです。

私個人の意見としては、子育てへの国からの支援を今よりも手厚くすることが必要だろうと思います。

少子化が進む背景はさまざまですが、子供を育てることの経済的な面や精神的な面での負担が大きいということも、間違いなくその一因となっているからです。

さらに注意しておくべきことは、支出の増加です。

共働きをすることによって、保育園をはじめ、さまざまな社会的コストの負担は増大します。

それに共働きの場合、毎月のキャッシュフローは比較的潤沢になるため、支出が甘くなりがちになるということもあるでしょう。

ただ、一方では同じ年収を稼いだ場合でも、一人で稼ぐのと二人で稼ぐ合計で言えば、税金が少なくなる分、二人で稼ぐほうが手取り金額は増えます。

大事なことはしっかりと稼ぐ以上に支出の管理をきちんと行うことでしょう。

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最強の老後資産作りは「夫が家事と育児をやること」/一生お金に困らない(6) 165-c.jpg前半3章でお金に対する考え方や知識を、後半3章で実際のお金をどう扱うかの具体的な年代別戦略モデルを資産運用のプロが徹底解説しています

 

大江英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表。CFP(日本FP協会認定)、1級ファイナンシャルプラニング技能士。大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金法が施行される前から確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。主な著書に『投資賢者の心理学』(日本経済新聞出版)『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などある。

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『いつからでも始められる 一生お金で困らない人生の過ごしかた』

(大江英樹/すばる舎)

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※この記事は『いつからでも始められる 一生お金で困らない人生の過ごし方』(大江英樹/すばる舎)からの抜粋です。

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