将来の不安を感じさせる「お金」の問題。そんなお金に人生を振り回されないためには、「知恵が必要」だと経済コラムニストの大江英樹さんはいいます。そこで、大手証券会社で長年にわたり個人の資産運用業務に携わってきた大江さんの著書『いつからでも始められる 一生お金で困らない人生の過ごしかた』(すばる舎)から、将来の不安をなくせるお金に関する知恵と備えるべき年代別ポイントを連載形式でお届けします。
「ライフプランを考えること」と「ライフプランシミュレーションをすること」は違う
多くの企業において、社員の福利厚生策の一環として「ライフプランセミナー」が実施されています。
ただ、このライフプランセミナー、名前は同じでも企業によってその中身はかなり違います。
例えば、定年後の生活や仕事を考えるためのヒントになるような情報を提供する、または今後の人生におけるお金の収支について学ぶ、といった内容であれば、これは文字どおり本来の「ライフプランセミナー」と言って良いのですが、中には単に「退職の手続案内」のようなものもあります。
せいぜい「定年後の年金や健康保険の扱い程度の話しか出てこないセミナーもあります。
まあ、それでもやらないよりはマシでしょうが、私は別にこんなセミナーを会社がやってくれなくても自分で将来のライフプランは考えるべきだと思います。
ところが、FP(ファイナンシャル・プランナー)の人などがライフプランを考えましょうということで提案してくるものの多くは「ライフプランシミュレーション」、もっと具体的に言えば、お金の収支を予測する「キャッシュフローシミュレーション」をやりましょうということなのです。(本稿では一般的に使われている「ライフプランシミュレーション」という言葉を使用します)
これは別に悪いことではありません。
自分のライフプランを考える上での参考データとしてこうした資金収支のシミュレーションを行うことは、ある程度役に立つ情報になると言っても良いでしょう。
ところが多くの場合、これを作ることが目的化され、さらに悪いことに、そうやって作られたシミュレーションを絶対視してしまう傾向があります。
私は、これはおおいに問題だと思っています。
「ライフプランを考えること」と「ライフプランシミュレーションをする」ことは別なのです。
ライフプランを考えるというのは、「今後の生きかたを確かめる」ということです。
自分と家族がこれからどんな人生を送りたいかを考えることなのです。
かつて保険会社の人などが「ライフプランシミュレーションをしてあげます」と言って、年収や貯蓄額、家族構成などを書かされ、それを基にシミュレーション結果を持ってきてくれるといったことがありました。
たいがいは「このまま行くとあなたは〇歳で貯えが底を尽きます。だから今のうちに保険に入っておきましょう」と言われることが多いものです。
要するにこれは営業ツールとして使われている側面が強いと考えるべきでしょう。
これからのライフプランでどれぐらいお金がかかるかは、まさにその人の生きかたによって全く変わってきます。
したがって、「自分と家族がどんな生活をしたいか」がわからない限り、ライフプランシミュレーションもできないはずです。
「ライフプランシミュレーション」で大切なことは?
とは言え、自分の望む生活をするには、経済的な裏付けが必要であることは事実ですから、今後の家計収支や資産収支は考えておくべきです。
したがって、ライフプランシミュレーションをやってみることは決して悪いことではありません。
ただ、大切なことは、金融機関やFPに任せきりにするのではなく、"自分でやること!"です。
なぜなら、今後どんな人生を送りたいかを一番よく知っているのは自分と家族だからです。
それに、ライフプランシミュレーションなどというものは、別に金融機関やFPにお願いしなくても世の中にはいくらでも出回っており、誰でも自分でできるようになっています。
ただ、そのためには最低限、普段から家計簿を付けたり、社会保険の知識を持っていることが大切です。
仮にFPに相談するにしても、自分で9割がた作った上で、必要なアドバイスを求めるにとどめるべきでしょう。
その大前提を踏まえて、注意しておくべき点を三点挙げておきたいと思います。
三つの注意点
注意点(1)シミュレーションはざっくり。精緻なものは不要
シミュレーションというのは一定の条件を前提として数字を入れ、試算結果を導き出すものです。
つまりここで言う「一定の条件」が変われば前提が変わってきますので、試算結果も変わります。
人生においてはすべてが予定どおり行くわけではありません。
うまく行く場合もそうでない場合もあるし、予想外のことはいくらでも起こり得ます。
したがって、シミュレーションの結果を絶対視しないことが大切なのです。
ところが、時間をかけて精緻なものを作ってしまうと、苦労して作っただけに、それを絶対視しがちになってしまいます。
だからあまり精緻なものは作らず、ざっくりとした適当なもので良いのです。
ライフプランにおいて絶対にやってはいけないことは、結果を絶対視することです。
なぜなら、環境の変化に合わせて自分を取り巻く状況は変わっていくからです。
したがって、シミュレーションは柔軟に変えていくことが大切だからこそ、適当でもかまわないのです。
いや、むしろざっくりとやったほうが良いのです。
注意点(2)自分一人で考えるのではなく、家族も一緒に考える
独身の人であれば、もちろん自分一人でかまわないのですが、家族がいる場合は、一緒に考えることが必須だと思います。
特にパートナーの意向は極めて重要です。
よくありがちなのは、定年後の生活について夫婦で意見が分かれることです。
これは夫婦といえども一人一人考えかたが違って当然ですから、やりたいことが違うのは致しかたありません。
だからこそ、できるだけ早い時期からパートナーと話し合い、意見が合わなければどこまで折り合えるかをしっかり話し合うことが大切なのです。
くれぐれも一人よがりでライフプランを考え、ライフプランシミュレーションを行うべきではありません。
注意点(3)定期的に見直しをする
多くの人が勘違いしていますが、シミュレーションは決して未来予測ではありません。
未来のことなんか誰にもわかるはずはありません。
では何のためにやるのかというと、その目的はプロジェクションにあります。
プロジェクションとは「投影」ということです。
現状を未来に向けて投影するということですね。
つまり、現時点の状況をそのまま将来に当てはめると、どんなことになるのだろうということを考えるのがプロジェクションなのです。
したがって、自分を取り巻く状況が変わってくれば、見直しを行うことが大切なのです。
ところが、前述したように、あまりにも精緻なものを作ってしまうとなかなか見直すことができませんし、それ自体が面倒になってしまいます。
だからこそざっくりと作り、定期的に見直すことが大切なのです。
例えば、子供が医学部に行きたいと言い出し、医大に合格したということであれば教育費は大きく増えるでしょう。
また、予想外の不況によってリストラで職を失うということがあるかもしれません。
逆に、親が亡くなったことで考えていなかった遺産を相続できたということもあり得ます。
こうした経済的な状況の変化を考えると定期的に見直すことが必要なのです。
理想を言えば年1回ぐらいは見直したほうが良いと思いますが、これもあまり頻繁にやると面倒くさいでしょうから3年に1度ぐらいでも十分だと思います。
繰り返しになりますが、「ライフプランを考えること」はとても大切ですが、その裏付けとなる「ライフプランシミュレーション」は過信してはいけません。
ましてやそれを他人に任せるなどということは、絶対避けるべきでしょう。
前半3章でお金に対する考え方や知識を、後半3章で実際のお金をどう扱うかの具体的な年代別戦略モデルを資産運用のプロが徹底解説しています