<この体験記を書いた人>
ペンネーム:mamapanda
性別:女
年齢:46
プロフィール:85歳の父は認知症です。施設に入るほどでもなく、私が時々実家に様子を見に行っています。
85歳の父は認知症です。といってもまだ重度ではなく、自分で出かけたり買い物に行ったりして体はとても元気。何も用事がなければ、毎日ソファーに寝転んでテレビを見るのが日課になっています。
ある日、私が実家に帰ると、サプリメントが何種類かテーブルの上に並んでいました。「どうしたの?」と尋ねると、「テレビで無料だってやってたから送ってもらったんだ」と、無料で得したことが嬉しいのか楽しそうに話していました。そのときはまぁいいか、というぐらいにしか考えていませんでした。
しばらくしてからまた実家に行くと、前回届いたものは飲まずに置きっぱなしにしているのに加え、同じサプリメントがもう一つ、そして別の種類のサプリメントも増えていました。「どうして増えてるの?」と聞くと、「なんでかなぁ」と。そして、テーブルの上には後払いの請求書も置いてありました。よく見ると「お得な定期コース」の請求書です。きっとサンプルを送ってきた後の勧誘電話で、「今なら定期コースがお得ですよ」という言葉にのってしまったのでしょう。年を取り何でも面倒臭いと思う父は、説明なども聞かずに「得なら送っといて」と申し込んでしまったのでしょう。今回は支払わないといけないよ、と父に言っても、「俺は知らん、覚えてない」ということで、私が支払いに行き、その会社に電話し、定期購入も解約しました。
その次に実家に行くと、また別のサプリメントの、しかも再請求と書かれた請求書がありました。「これ、払わないと駄目じゃない! ブラックリストに乗っちゃうよ!」と言うと、「勝手に送ってくるんだ」の一点張り。挙句の果ては、何故こんなものを送ってきたんだ、とメーカーに電話をかけ、「俺の個人情報を盗んだ。訴えてやる!」と大声でクレームをつける始末。さすがにコールセンターの方も可哀そうに、と思いましたが、これでその会社からのセールス電話は二度とかかってこないだろう、とまた支払いだけ済ませました。
こんなことが何度も続きました。そのたびにどうして、なんで覚えてないの、駄目じゃない、と、つい声を荒げてしまいます。でも、認知症は新しいことを記憶するのが苦手で、さっき食べたことも忘れてしまいます。けれども昔のことは不思議なほど覚えているのです。ずっと地道にサラリーマンをして、役員まで昇りつめ、数多くの部下を従えて定年した父です。そんな父にまるで幼児を叱るような言葉を投げると、記憶にある昔のプライドが呼び起こされ、余計反発するばかりです。「父親を馬鹿にしているのか!」と。父を心配して注意しているのに、そんな風に言われると、本当に泣きそうになってしまいます。
何度もそんなことを繰り返しながら思ったのは、父はいつまでも昔のままの父であるということです。変わったのは認知症という病気になったことだけ。長い風邪のようなもの。風邪を責めても仕方がない。そこで叱るのではなく、逆に「また送ってきたね。でもお父さん体は人より元気だからもう必要ないんじゃない?」と言ってみると、元気が自慢の父は「そうだな、断っといてくれ」と嬉しそうに答えました。「いっぱいあるから私がもらうね」と言うと、「お前の為だと勿体ない。もう断っといてくれ」と笑い飛ばしました。叱って嫌な思いをするより、褒めて笑い合ってのほうがお互いに気持ちよくいられる、と気づきました。
それでもやはり同じことは繰り返しましたが、父にもそれは不要なもの、という意識が少しずつついたようです。やがて父の中でブームが過ぎ去ったのか、もう注文はしなくなりました。
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