「50代の女性です。葬儀社の事務員として働いていた15年前、デリカシーのない営業男性がいました。喪家に浴びせた彼の言葉が非常識で、いまだに忘れられません」
■営業成績は優秀だけど失言の多い葬儀ディレクター
15年前(当時37歳)、私が事務員として働いていたときの話です。
勤務先は地元で十数か所の斎場を展開する、わりと大きい葬儀社でした。
会社が運営する斎場では、じつにさまざまな職種の方が働いていて、なかでも重要なポジションを担っていたのが葬儀ディレクターと呼ばれる方々でした。
葬儀ディレクターとは、葬儀に関するありとあらゆる知識と技能を持つプロのことです。
社内の試験に合格して認められる職種で、通夜・告別式がつつがなく執り行われるよう段取りを組む総指揮官のようなもの。
葬儀ディレクターの手腕によって、祭壇や花、返礼品、料理などの内容が決まり、ひいては会社の売上にも直結してくるので、葬儀社の営業とも言えます。
その一方で、悲しみと戸惑いの渦中にあるご遺族と最初に対面するため、人の気持ちに寄り添える繊細さや気遣いも必要とされます。
その職場にNさん(男性・当時40代後半)という葬儀ディレクターがいました。
Nさんは営業成績が優秀で、会社上層部のウケはよかったのですが、事務員や司会、受付の派遣社員からは嫌われていました。
というのも、Nさんにはややデリカシーに欠けるところがあり、みんながいる前で女性従業員に年齢を尋ねたり、容姿の感想を述べたりしていたからです。
私も入社早々、事務所内でNさんに年齢を公開された被害者の1人。
それ以来、彼が担当する喪家の葬儀がある日は、憂鬱な気分で出社していました。
■豪華な祭壇を断られたNさんの信じがたい暴言とは...
あるときの初夏、そんなNさんが事件を起こしました。
運送業を営んでいた喪家へ打ち合わせで訪問したNさん。
亡くなったのは60代のお父様で、会社を継いだ30代の長男様が喪主を務められていました。
裕福なご家庭で、なおかつ仕事関係の参列者も多いと予想されたため、Nさんは当然のように広い会場と、その広さに見合った見栄えのする高い祭壇を勧めたそうです。
しかし、Nさんの予想に反して喪主はリーズナブルな祭壇を希望されたとのこと。
言葉巧みに説得するも、「あまり派手なことはしたくない」との決心は揺るがなかったようです。
その時期、思ったような営業成績が上げられなかったNさんは、信じられない暴言を吐いたのでした。
「こんな安い祭壇では、お父さまも成仏できませんよ」
打ち合わせに同行したアシスタントさんの話によると、一瞬空気が凍りついたのち、故人の奥様が嗚咽を漏らして泣き始め、それを見た喪主と兄弟がものすごい剣幕で怒り出したそうです。
そして、Nさんとアシスタントさんは塩を投げつけられんばかりの勢いで追い返されたとのこと。
すぐに会社にクレームが入り、Nさんが菓子折りを持ってお詫びに行くも、お父様のご遺体はライバルの葬儀社が迎えに来て運ばれていきました。
結果、Nさんは1週間の自宅謹慎処分を言い渡され、6カ月間ほどディレクター業務ができなくなりました。
この処分が重いのか軽いのかはわかりません。
ただ、半年後に少しやつれた面持ちで職場復帰したNさんは、失言も減って私も仕事がしやすくなりました。
会社ですから売上も無視できませんが、それ以上にご遺族の心に寄り添う気持ちが大切。
「そんな安い祭壇では、お父さまも成仏できませんよ」という暴言は、戒めも込めてその後、社内で語り継がれていきました。
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