<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男性
年齢:61
プロフィール:地方都市で公務員をしている61歳の男性です。どこの町にも名物店主のいる飲食店があるものです。
私の町にはいわゆる「名物ラーメン店」があります。
この店はタンメンが名物で、野菜が山盛りの塩ベースのラーメンはボリュームたっぷり、飽きの来ない味で親しまれています。
私がこのラーメン店を知ったのは、役場の町民課から総務課に異動になった1990年頃。
ある日、飲み会の帰りに先輩(当時40代)に連れて行かれたのが最初でした。
「一癖ある親父はカタブツだけどな、タンメンがうまいんだよ」
そう言われて入った店内は、深夜にも関わらずそこそこの人がいて、人気のほどが伝わってきました。
壁にはいかにも老舗っぽい茶色く変色したメニューが貼られていました。
「何にする? 俺はタンメンで決まりだけど...」
先輩にそう促され、私もタンメンを、他に同行していた2人はチャーシュー麺を選び、餃子も頼もうと話がまとまりました。
「おねがいしまーす! えっと、タンメン2つとチャーシュー麺2つ、それから...」と、先輩が言いかけたときでした。
「ああ、めんどくせえ! いいからタンメン4つにしとけ!」
厨房から怒鳴り声が響きました。
「あちゃ、今日は特に機嫌が悪そうだ、すまんな...それでいいでーす」
先輩はいかにも参った、という顔で同行の2人に頭を下げました。
これが噂の一癖親父(当時60代後半?)との出会いでした。
いまでもよく頑固おやじのラーメンがもてはやされますが、この店もまさにそんな「名店(迷店?)」でした。
その後も昼食で訪れて餃子を頼もうとすると、親父の怒号が飛んできます。
「昼間っから餃子を食うような奴はだめだ! 出世できねえ!」
独自の理論を展開し、注文を拒否されました。
別の日にはこんなこともありました。
「確かにタンメンはうまいけど、たまには別なものも試したいよなあ...」
そう思った私は味噌ラーメンを注文したのですが...。
「うちには味噌ラーメンなんてねえよ」とそっけない返事。
「え? でもメニューには...」
壁のメニューを指さしながらおそるおそる抵抗したのですが、親父の答えは予想だにしないものでした。
「うるせえなあ、いまこの瞬間からやめたんだよ!」
そう言い張られてしまっては、何も言い返せません。
結局この店で、私がタンメン以外を口にすることは、ついぞありませんでした。
この居丈高な接客をありがたがる者も少なくなく、店はけっこう繁盛していましたが、私は数回行っただけで足が遠のきました。
その貴重な数回も、自らではなく誘われて行っただけです。
すっかりこの店を忘れていたのですが、つい最近、おいしい店を見つけた、と同僚(50代)に連れて行かれたところ、まさにこの店でした。
少々嫌な予感がしましたが、店は小綺麗になっていて、入ってみると、いらっしゃいませ、と気持ち良い挨拶で迎えられました。
「30年以上経ってるもんな、さすがにあの親父はもういないか...」
そう感慨にふけっていると、同僚が声をかけてきました。
「タンメンがね、評判なんだよ...あ、俺、タンメンで」
ああ、そこは変わってないんだ、と私も懐かしのタンメンを注文しました。
合わせて餃子も頼みましたが、今回はちゃんと出てきて、初めてこの店の餃子を食べました。
続けて出てきたタンメンは、当時の味そのまま、絶品でした。
「カタブツ一癖親父」は、接客は一代限りとして味はしっかり伝承した、というわけです。
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