性別:女
年齢:54
プロフィール:20代の頃は結婚願望が強く、そんな時に出会った男性と交際。その時のイヤな思い出も、今となっては笑い話です。
※ 毎日が発見ネットの体験記は、すべて個人の体験に基づいているものです。
◇◇◇
20代半ばの頃、私にはとても自慢の彼がいました。国立大学出の一級建築士で、とても優しい人でした。
彼は小学生の頃、お父さんが脳梗塞になって重い後遺症を残してから、凄まじいほどの貧乏生活をしていたそうです。4畳半の玄関もない部屋で親子5人の生活を続け、「子供の頃、玄関のある部屋に住むことが夢だったんだ」と、当時のことを語っていた彼。毎日「こんな家に住みたい」と、紙に間取り図や家の絵を描き続け、初めて玄関付きの6畳に引っ越したときの感動が忘れられないと話していました。
玄関の付いた部屋に引っ越したとき、彼は1つの夢が叶うと同時に新しい夢を持ち始めました。それは、一級建築士になるという夢。彼は高校に入ると部活でバレーボールを続けながら、アルバイトを掛け持ちし、必死に勉強して国立大学に主席合格しました。
私は、そんな努力家の彼が大好きでした。ですが、結婚の話が現実に近付いていくたびに彼の倹約家っぷりが気になるようになったのです。最初に気になったのは壁の使い方。彼が私の部屋に遊びに来たときに、「壁の空きスペースがもったいない」と言い出したのです。
私はテレビ台の上を空けておいたのですが、「テレビの上のスペースが空いているから、壁一面を棚にすると無駄がなくなるよ」と言うのです。圧迫感を感じると説明したのですが、彼はその意見を曲げようとはしませんでした。
食事の話をすれば、食卓にモヤシが不可欠らしく、彼はモヤシについて語り出すと止まらないのでした。何よりも強調していたのが、モヤシは自宅で簡単にいくらでも栽培できるという話。モヤシだけではありません。彼は「お金がかからない」「お得」「安い」という話題が大好きだったのです。
野菜の皮を捨てることは許されず、一緒に買い物をすれば「駅前のスーパーの方が5円安いよ」といった感じで、買わせてくれません。どうしても出てしまう野菜くずについては、家庭菜園に再利用するからと捨てることもできないのです。
そんな私たちが婚約を解消し、別れるきっかけとなったのが焼きそばでした。その日、たまたまモヤシを切らしていて、野菜がピーマンしかなかったので、私は豚肉とピーマンを入れて焼きそばを作ったのです。そのときは二人で笑いながら「ごめんね。今度買っておくね」などと話は終わったのですが、その後、彼の中でモヤシがなかった不満が増幅していったようです。
翌日会うと「モヤシぐらい買っておけばいいじゃないか」と、かなり真顔で言われたために、その後大喧嘩になってしまいました。私が「なかったんだから仕方ないじゃない」と言うと、彼は「モヤシがない焼きそばなんて焼きそばじゃない」とまで言いました。
私はずっと蓄積していた不満が爆発し、「私、あなたと結婚できない」と、婚約を解消することにしました。一人暮らしだった私は、婚約解消という重大事件について問い合わせしてくる家族や親戚が鎮まるまで電話にも出なくなり、近所の商店街で彼に会っても挨拶すらし
なくなりました。
それから数年後、私は彼とばったり会い、久しぶりに話をしました。そして、彼の自宅でパーティーをやるという話があって、私もそこに誘われたのです。そして、パーティーの席でも、彼が例の焼きそばの話を蒸し返してきました。
しかも、モヤシが入っていなかったというだけではありません。彼の記憶からピーマンと豚肉も抹消されてしまったらしく、「メガネちゃんは、俺に何も入っていない焼きそば作ったことがあったよね」と言われたのです。久しぶりの友達がいる前で、私たちは再び険悪な雰囲気となってしまいました。
それ以来、私にとってモヤシはイヤな記憶が蘇る、大きなトラウマとなっています。
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