<この体験記を書いた人>
ペンネーム:藤黄
性別:男
年齢:42
プロフィール:妻とは結婚して7年の年月が経過。貧乏だけど笑っている妻に感謝しつつ、自分を鼓舞する日々が続いています。
私(42歳)と妻(36歳)には、7歳の娘がいます。
6年ほど前、娘の2歳の誕生日を間近に控えた2016年のある日、妻が「新しいパジャマ買ってきたよ」と、私と娘の分を袋から取り出しましたが、妻の分がありません。
「君のは?」
「私はお気に入りがあるから」
妻の古びたパジャマがすぐ思い浮かびました。
「あのずっと着てるやつ? 付き合ってる頃から着てるだろ? あの毛玉だらけのスウェット」
「愛着があるの。あと、安心感も」
そう言って妻は笑いました。
そして、娘の誕生日当日。
私たちは3人で近所のスーパーに出かけました。
私の給料は少なく、普段は贅沢なことなど何もしてあげられませんでしたが、娘の誕生日だけは特別でした。
妻は娘の好きな食材を買い込み、私はいつもならあまり買えないお菓子を娘と一緒に選びました。
「今日は誕生日だから好きなもの買っていいよ」
娘に言うと、娘は嬉しそうにお菓子を選び始めます。
その姿を見ていると、かわいいやら情けないやら、いろんな感情が入り混じり、涙がこぼれ落ちそうになりました。
買い物が終わってレジに並んでいると、妻が会計をするためにボロボロの財布を取り出しました。
お金を出そうと財布を開くと中もボロボロで、かすれたプリクラが貼られていました。
「新しい財布買えば?」
会計を終えて袋に詰め替えているとき、私は妻に言いましたが、言ってすぐ後悔しました。
妻がこんなボロボロの財布を使っているのは誰のせいなのか、答えは簡単だったからです。
「えっ? まだ使えるでしょ、これ」
妻は笑って財布を見つめた後、私に向き直りました。
「覚えてないの? これ、あなたが付き合ってるときにくれたものだよ」
私を睨みつけるように言うのです。
正直、私はすっかり忘れていました。
妻が財布を開いて見せてきたかすれたプリクラには、今より随分と若い私と妻が笑っていました。
はっ、と私は思い出しました。
パチンコの景品でなんとなく選んだ財布だったことを。
妻がそんな財布をいまだに大切に使ってくれていたのだと思うと、嬉しいやら情けないやら、また涙がこぼれ落ちそうになりました。
帰宅すると、100均で買った風船などで飾り付け、娘の好きな料理を食べながら誕生日を祝いました。
私が小さなケーキとプレゼントを娘に渡すと、とても喜んでくれました。
妻は娘に「よかったね」と笑いかけ、そして私に「いつもありがとう」と言ってくれたのです。
私は涙をこらえ、妻のボロボロの財布を思い出しながら「ごめんね」という言葉を飲み込みました。
半年後、私は妻の誕生日に新しい財布をプレゼントしました。
そんなに高価なものではありませんでしたが、妻は「ありがとう」と笑い、かすれたプリクラを新しい財布に貼り直しました。
「せっかくブランド物なのに、もったいない」
私は言いましたが、妻は「いいの」と笑いながら、かすれたプリクラの横に3人で笑っている、新しく撮ったプリクラも貼りました。
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