<この体験記を書いた人>
ペンネーム:かっちゃん
性別:女
年齢:42
プロフィール:結婚して16年、3児の母です。
私には66歳になる母がいます。
母は原因不明の脳疾患により、この1年、昏睡状態で寝たきりの状態です。
入院当初は「もしかしたら半年ももたないかもしれない」と言われ、あまりに突然のことで驚きと悲しみとで感情がグチャグチャになりました。
ふとした瞬間に、思い出して涙が流れてしまうような心境でした。
父は気丈に、そのときできるベストを尽くし、冷静に対応してきたように思えます。
病状を告げられてから間もなく、自分と母が入るお墓を購入するなど、いつ何が起きても慌てないように、極端すぎるくらい用意周到にあらゆる準備をしていました。
そうしているうちに、母の病状は回復しないまま、時間だけがたってしまいました。
時間と共に、父や私も落ち着いて見守ることができる状態となり、最近の父は実家でゆっくりと母の持ち物を整理しているようです。
先日、病院の面会帰りに実家へ立ち寄ると、いくつか母の愛用品を見せてくれました。
母がどういう理由でそれらを大切にし、どんなふうに扱っていたのかを父は一つ一つ教えてくれました。
その中の一つに、いつもバックに入れて持ち歩いていた1枚のイラストがありました。
カレンダーか何かの絵なのでしょうか。
少年がひざまずいて、1輪のバラを少女に差し出しているシーンが描かれています。
そして、その裏面に母の文字で「〇〇さん(父の名前)いつもありがとう」と書かれていました。
さらに、その横に父から「どういたしまして」と返事が書かれていたのです。
父は母のカバンを整理しているときにその絵を見つけ、返事を書いたそうです。
もう読むことはできないであろう母に向けて、一人で返事を書いた父を思うと涙が出そうになりました。
母が元気なころは、くだらないことでケンカばかりしていた二人でしたが、このやりとりだけでお互いを想いあっていたことが十分に伝わってきました。
同時に、夫婦ゲンカのあと、よく手紙で謝ったり文字でやりとりしたりする二人だったな、と思い出しました。
ベッドに横たわり、何の反応もない母を見ると、やはり悲しく切ない気持ちになります。
それでもこうした二人のやりとりに、娘の私も少し救われたような温かい気持ちになりました。
長い年月がたっても、相手に対して「いつもありがとう」と言える関係が羨ましいです。
今度のお見舞いでは「お母さん、幸せ者だね。そして素敵だね」と声をかけてこようかなと思っています。
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