<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ころちゃん
性別:男
年齢:54
プロフィール:親の介護、看護などを意識する年齢になり、働き方も工夫している今日この頃です。
中学以来の友人(54歳)の話です。
彼は同い年の奥さんと3人の子宝にも恵まれて、大変ではあれど幸せな家庭を築いてきました。
私も家族ぐるみでお付き合いさせていただき、しっかり者の長女、いたずらな長男、元気な次女と、子どもたちの成長もそれなりに見せてもらってきました。
そんな彼の一家に、突如大事件が起こったのは約10年前、子どもたちの巣立ちの時期でした。
彼には特に趣味もなく、休日はいつも家族をあちこちドライブに連れていくような、聖人君子とは言えないまでも子煩悩な良い父親でした。
日常のささやかな楽しみと言えば、せいぜい同僚と馴染みのスナックに行き、一杯呑んでカラオケを歌うくらい。
稼ぎは充分でしたが、何しろ3人の子を抱えてマイホームも手に入れたため、奥さんもパートで働き、決して派手な生活はしていませんでした。
しかし、ある日のことです。
ちょっとした気の迷いと緩みから、行きつけのスナックで馴染みの女の子に数万円のプレゼントを買い与えてしまいました。
職場の後輩の前でいい格好をしてみたかったそうなのです。
収入からすれば大した額ではなく、浮気などやましい事情もなかったため、彼にとっては単なる無駄遣いの範疇の出来事と言えるでしょう。
ところがカード使用の明細から、奥さんにこのことを知られてしまいます。
これが数百円のお菓子とかであれば、揉め事には発展しなかったかもしれません。
しかし、数万円の謎の買い物ですから、履歴を見た奥さんは彼に詰め寄りました。
彼は正直に本当のことを言いました。
この時点で、彼は大事に至るとは思っていなかったのです。
ところが彼ら夫婦は、どちらも生真面目なところがあります。
奥さんは、スナックの女性に数万円、というところで激昂してしまいました。
「子どもたち3人を大学に行かせて自分もパートに励んでいるというのに、いくらきちんと稼いでいるからといって、何ということをするの」
「常連で世話になっているから挨拶のつもりだった」
「それなら2人で相談して品を決めてもよかったはず...!」
お互いヒートアップしてしまい、収拾がつかなくなっていったそうです。
「数万円あれば家族にもっと使えたはず。それを飲み屋の店員に使ってしまうなんて...」
奥さんは次第にヒートアップ! 初めは苦笑いしながら詫びていた彼も、まずいと思い始めました。
思いつめた奥さんは彼のことを罵倒し、ついに「人間の屑」とまで言い出したそうです。
このとき、娘たち2人は県外の大学に通っていたので家にいませんでしたが、やがて県内の国立大学に通う長男がアルバイトから帰宅しました。
いつもとは違う両親の夫婦喧嘩に直面した彼に、奥さんがかいつまんで状況を説明します。
長男は渋い顔をして自分の部屋に引き上げました。
その後も奥さんの厳しい言葉が続き、夜も更けてきたとき、長男が再び姿を現しました。
2人の前で彼は口を開きました。
「お父さんが100パーセント悪い」
友人は首を垂れます。
「でも、小さい頃から可愛がってくれて、いろいろな所へ連れて行ってくれて、本当に幸せな家庭を築いてくれた。ぼくらがこんな立派な生活ができるのも、お父さんのおかげだ。そのお父さんが人間の屑とは思えない。お母さんも言葉を選ぶべきじゃないか?」
友人はがつんと頭を殴られたような衝撃を受けました。
「こいつ、いつの間に...こんなに成長していたなんて...」
これを聞いて冷静な顔に戻った奥さんは、それ以上何も言わず部屋に引き上げました。
夫婦は数日ぎこちない関係でしたが、食事など日常生活は滞りませんでした。
週末には友人が奥さんと長男を食事に連れ出し、奥さんもわだかまりなく応じました。
その後、長男を含めて子どもたちは皆結婚して家庭を築き、友人と奥さんは今も幸せに暮らしております。
まさに子はかすがいだと感じた話でした。
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