20代で結婚して、2男1女を授かり、主婦として暮らしてきた中道あんさん。でも50代になると、夫との別居、女性としての身体の変化、母の介護...と、立て続けに「人生の転機」が訪れます。今回は、中道あんさんが有料老人ホームに入所している母を訪ねた際の「娘だからこそ分かった、お母さまの変化の理由」についてお届けします。
前回の記事:「なんで医者でもない者にダメと言われるんや!」施設職員に怒る母が、唯一信用しているのは...
10月に母の誕生日があります。私自身は自分の誕生日に特別の感情もなく、50歳を過ぎればもう幾つでも変わらないと思うのです。
しかし、母は毎年自分の誕生日を何よりも楽しみにしているのです。誕生日が近づくと必ずプレゼントを催促されるのでした。
先日施設にいくと「お母さんがトイレを自力できるようにしたいと申し出がありました」と話す職員さん。「それ自体は非常に前向きでいいことだと思うのですが、転倒などの危険性が高いので必ず職員を呼んでと伝えていますが、約束を守ってはくれない」と。職員さんは「いったい何があったのでしょう?」と不思議な様子。
その話をきいてニンマリとしました。
行動が何に繋がっているのかを予測すると、母の目論見が直ぐに分かったからです。「見といてください。きっとそうですから」と言って母の部屋へ行きました。
開口一番に、「リハビリの先生がな、もっと運動せなあかんていわはんねん」「トイレもな前は一人でしてたやろ。そやから出来るって」「ほんでな練習してんねん」「いちいち施設の人を呼ぶのは気の毒や。そやから一人で行ってんねん」「オムツもしてないねん」「だからスッキリとしてると」ズボンのウエスト周りを指さして見せてくれます。
「ひとりで行ったら危ないで。必ず職員に声をかけて」と言うと、自分のしていることを反対されずに嬉しかったのか、次々と施設での出来事を上機嫌で話していました。今日は悪口がなくて良かった。と、思った矢先。
「そやからな、誕生日には買い物に連れていって欲しいねん」
「でたー、本音!」と思わず吹き出しそうになりました。
母は糖尿病のせいで頻尿なのでトイレが近い。何度も用を足すのでオムツだけでは間に合わないのです。自力でトイレが出来なくなった理由は忘れましたが少なくともここ1年はベッドでオムツ交換をしていました。実はこのトイレ問題がお出かけのネックだったのです。
このままでは一生お買物には行けない。
自力でトイレができるようになればデパートにも連れていって貰える。
最後に買い物に行ったのは去年の4月。母はどうしても行きたいのでしょう。リハビリの先生の言葉はきっとデタラメ。どうすれば連れて行ってくれるのか考え行動したのでしょうね。自分の目的の為なら努力と嘘を惜しまない。本当によく頭を使う。
あまりにもおかしくて「はい、はい。分かった」と言うと「いつ?絶対やで。施設に言うといてや」とその気満々。
帰り際、職員さんに「ビンゴでしたぁ」というと「ええーっ。やっぱり娘さんや。お母さんのことよう知ってはるわー」と大笑い。
母との買い物は楽しくなく正直面倒です。けれど私はユーモアのある人が大好き。今回は母のユーモアのセンスに笑うことができたので、お供いたすことに決めました。さてどうなることやら。
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