【本作を第1話から読む】「我慢して今の仕事を続けるべき」「料理は手作りがいい」――「普通」を押し付ける親に欠けている「能力」
『「親がしんどい」を解きほぐす』 (寝子/KADOKAWA)第4回【全4話】
親に対するしんどさはご自身にとって"大切な気持ち"の宝庫かもしれない――
X(旧Twitter)のフォロワーが1万人を超える、臨床心理士・公認心理師の寝子さんは、著書『「親がしんどい」を解きほぐす』のなかでそう語ります。
「毒親というほどではないけれど、親と関わるのがちょっとしんどい...」親との距離感にモヤモヤを抱えている人は多いはず。気軽に話せない親との関係、モヤモヤは、寝子さんによれば「自分の人生をしっかり歩んでいるからこそ生じるストレス」。自分の気持ちを見つめ直し、具体的な対処法も示唆してくれる本書から、第4章「「親の言動のワケ」を知ることでモヤモヤを晴らす」を抜粋して紹介します。
※本記事は寝子著の書籍『「親がしんどい」を解きほぐす』(KADOKAWA)から一部抜粋・編集しました。
「普通になりたい」と思い続けたD さん
専業主婦だったDさんは、お子さんが小学生になり、少し時間ができたことで働き始めることにしました。10年のブランクがあることと、子どもはまだ手がかかる年齢のため、パートタイムで働くことになりました。
夫が育児や家事に参加することはほとんどありませんでしたが、「専業主婦の自分が全部やるのが普通」と思い、がんばってきました。パート勤めが始まっても、子育ても家事も手を抜かないように毎日忙しく過ごしていました。
「はたから見れば、きっとそれなりに幸せに見えるんだと思います」と、弱々しい笑みを浮かべながら話すDさんからは、疲労と寂しさ、そしてかすかな怒りが伝わってきました。
「ほかのお母さんは正社員で働いているのに......それが普通なのに、私はできていない」
「ママ友の旦那さんはいつも子どものサッカークラブについてきていて、今はそれが普通なのに、自分の夫は知らん顔......」
「フルタイムで働いていないのだから、家事と育児くらい普通にできるはずなのに、体がだるくてどうしても起き上がれないときがある......」
Dさんは、毎日を一生懸命がんばっているのに、こういった苦労は「それが普通」で済ませていました。
カウンセリング中、親との関係に話が及んだとき、Dさんはふと「親は普通の人で、〝ああしろこうしろ〟と厳しく言う人たちではなかった。でもいつも〝普通だったらいい〟〝普通にしてくれればいい〟と言われていました。だから私は〝普通になろう〟と生きてきた......」と話され、その直後、はっと顔を上げ、
「普通ってなんですか?」
と、それまでより少し大きくなった声で尋ねられました。
〝普通〟という、さも「特別なことは望んでいない」かのように、でも本人らしさを否定する言葉を親から繰り返し聞いているうちに、Dさんは知らず知らず「自分がどう思うか」という視点を失ってしまっていました。
「自分は何を感じ、何をしているときに楽しく思い、何がしたくて何をしたくないのか」。このことを考える代わりに、「普通とは?」という答えのない問いと戦ってきたのです。
Dさんは「親のさりげない言葉が、まさかこんなに影響していたなんて」と驚いていらっしゃいましたが、この気づきを得たことで、その後はだんだんと「普通にしていないと」という呪縛から解かれていきました。
今まで自分の感情や意思表示をしてこなかったので、最初は「何をしたいかわからない」と新しい悩みを抱いていましたが、だんだんと「Dさん自身の感情」が出てくるようになりました。
「パート先で、ボス的存在の主婦の機嫌にびくびくしていたけれど、何かあったら辞めればいい」と気楽に構えられるようになり、「食器洗いは夫にやってもらうようにしました」と人に頼れるようにもなっていったのです。
現在は「子どもの帰りが遅いときに、一人でお菓子作りをするのがちょっとした楽しみの時間」と趣味もでき、「自分がどう思っているか、どうしたいか」を基準に行動できるようになられています。