1粒1000円のイチゴが売れる秘密。キーワードは「贈答用」と「感情的価値」【高くても売れる秘訣】

1粒1000円のイチゴを生み出したブランディング方法

しかしイチゴは品種によっておおよその相場が決まっています。GRAで育てているのも「とちおとめ」「よつぼし」「ハナミガキ」といった既存の品種です。栽培したイチゴのポテンシャルを上げるには、「品種」以外の要素でブランディングをして高価格で販売する必要があります。

そこで熟度、色、形、糖度、大きさなどの基準を満たしたイチゴを厳選し、ダイヤモンドの原石を磨き上げる作業に例えて「ミガキイチゴ」と命名することにしました。さらにレギュラー、シルバー、ゴールド、プラチナと4段階のグレードに分けて販売したのです。

「プラチナ」に選ばれるのは、約500粒のうち1粒程度。

希少性は十分です。

だからといって、それだけで買ってくれるでしょうか?

そこで考えたのが、商品コンセプトを「自分で食べるもの」から「人に贈るもの(プレゼント用・贈答用)」にすることでした。

「おしゃれ」「美しい」という感情的価値を重視

「高売れキーワード」の2つ目は「プレゼント」です。似た内容の商品であっても、「プレゼント用」「贈答用」にすることによって、買う人の判断基準は大きく変わってきます。

自分のために買う時は、味や価格という「理性的価値(コスパ)」が優先されます。

しかし誰かにプレゼントするために買うときには、パッケージのおしゃれさや商品を開いたときの美しさなどといった「感情的価値」が優先されるようになるのです。

この本を読んでいるあなたも、きっと覚えがあるでしょう。

自分用の食べ物だと「おいしくて安い」が最優先だけど、改まった贈答用には「おいしさ」もさることながら、「見た目のおしゃれさや美しさ」が優先され、「それなりの値段」であることも重視されるということを。

実際、ミガキイチゴは、1粒ずつ丁寧に緩衝材に包まれ、宝石のロゴマークをあしらった化粧箱に収められています。売り場も、普通のイチゴとの差別化を図るためにスーパーなどではなく、東京都内の高級デパートに狙いを定めました。

このように「贈答用」に絞ったマーケティング戦略で、高価格を実現することができたのです。最上級の「ミガキイチゴ・プラチナ」のお値段は、なんと1粒1000円。まさに「食べる宝石」ですね。

2013年度には、農作物の付加価値を高めることに取り組んだ点などが評価され、グッドデザイン賞を受賞しました。

「ミガキイチゴ」は確かに高価ですが、完全に"真っ赤"になるまで待って収穫したデリケートな完熟イチゴ、しかも形の揃ったものが立派な箱にきれいに並べられた様子を見ると、贈られた人は思わず笑顔になるでしょう。

複数品種のイチゴを「ミガキイチゴ」という地域ブランドとしたことも、独自化に大きな役割を果たしています。

それに加えて、震災被災地での生産活動という情緒に訴えかけるストーリーも、「ミガキイチゴ」を「高くてもバカ売れ」するブランドに育てた要因のひとつであることは間違いありません。

つまり「ミガキイチゴ」は、消費者の理性ではなく感情を動かす「贈答用イチゴ」としてのストーリーを生み出すことで、1粒1000円という驚きの価格づけを成功させたのです。

 

川上徹也
湘南ストーリーブランディング研究所代表。大阪大学人間科学部卒業後、大手広告代理店勤務を経て独立。数多くの企業の広告制作に携わる。東京コピーライターズクラブ(TCC)新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC 賞など受賞歴多数。現在は、広告制作にとどまらず、さまざまな企業・団体・自治体などのブランディングや研修のサポー ト、広告・広報アドバイザーなどもつとめる。著書は『物を売るバカ』『1行バカ売れ』(いずれも角川新書)、『キャッチコピー力の基本』(日本実業出版社)、『江戸式マーケ』(文藝春秋)、『売れないものを売る方法? そんなものがほんとにあるなら教えてください!』(SB 新書)など多数。

※本記事は川上徹也著の書籍『高くてもバカ売れ! なんで? インフレ時代でも売れる7の鉄則』(SBクリエイティブ)から一部抜粋・編集しました。
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