定年退職や年金受給が始まった年の「確定申告」は? 「配偶者特別控除」で税金が戻ってくるって本当?

確定申告では、納め過ぎていた所得税が還付されるさまざまな控除があります。医療控除や地震保険料控除は有名ですが、配偶者特別控除は2018年に制度が改正されたこともあり、今ひとつ理解をされていない人も多いのではないでしょうか。今回は、山本宏税理士事務所 所長 税理士の山本 宏(やまもと・ひろし)先生に「確定申告と配偶者特別控除」についてお聞きしました。

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2021年の収入がまとまり、確定申告の準備を始めたという人もいるのではないでしょうか?

ただ、日本では会社勤めをしている場合、会社側が年末調整で払い過ぎていた所得税を還付、あるいは不足していた所得税を追加納付してくれるので、確定申告を行う義務はありません。

しかし21年に定年退職した、もしくは21年から年金を受給し始めたという人は、「これからは確定申告をしなくてはいけないの?」と考えているかもしれません。

これに対し山本宏先生は、「1月から12月までの給与や公的年金以外の所得が20万円以下だった場合や、公的年金の受給額が400万円以下だった場合は、確定申告が義務付けられていません」と答えます。

給与や公的年金以外の所得というのは、個人で事業をしている人の事業所得や、不動産所得、株の配当所得などが挙げられます。

また、公的年金の受給額が年間400万円を超えるのは、大企業などに勤めていた一部の人に限られるそうです。

「多くの人は定年退職をしたり年金受給を始めたりしたからといって、確定申告を行う義務はないのです」(山本先生)


確定申告の流れ(2021年度のケース)

≪2021年1月1日〜12月31日≫

 ●確定申告は、この期間に得た給与、公的年金、事業、不動産、配当など課税対象となる所得を税務署に申告し、自分で所得税を納める手続きです。

 ●この期間で得た給与や公的年金以外の所得が20万円以下の場合や、公的年金の受給額が400万円以下の場合は確定申告を行う義務はありません。

≪2022年1月1日~2月15日ごろ≫

 ●確定申告に向けての準備を。申告書は「申告書A」と「申告書B」の2種があります。税務署で入手できるほか、インターネットが使える場合は国税庁のホームページからダウンロードして印刷も可能です。

 ●医療費控除に必要な領収書、レシートなどもまとめておく。医療費控除とは、1年間にかかった医療費が一定額(基本的には10万円)を超えた場合に控除を受けることができる制度です。

 ●給与や公的年金による収入のみの場合は「申告書A」、事業や不動産、株の配当などの所得がある人は「申告書B」を使います。

 ●分からないことがある場合、市区町村や税理士会が行っている税の無料相談を利用できます。

 ●地震保険料の控除証明書や株の配当の計算書は、この時期までに用意を。

≪2022年2月16日~3月15日≫

 ●申告書類をそろえて税務署に提出、あるいは税務署に郵送すれば申告完了です。

 ●不安な場合、期間中税務署に特設される相談コーナーの活用も可能です。

 ●所得税の納付が必要な場合は、納付書も併せて作成して納付を済ませましょう。


確定申告は、上のような流れで行います。

書類の用意など、少し手間がかかりそうです。

行う義務がないことで胸をなでおろした人もいるかもしれませんが、山本先生は「ただし」と続けます。

「確定申告を行う義務はなくても、納め過ぎていた所得税が還付されるので"申告をした方がお得"というケースはよく見かけます」

地震保険料控除や医療費控除などはよく知られていますが、見落とされがちなのは株の売買によって配当を得たときだと山本先生は指摘。

株の売買を行う場合、証券会社で「特定口座(源泉徴収あり)」を開設することがあります。

その名の通り取引時に税を源泉徴収される口座で、後で確定申告する義務がなく便利なのですが、「実は配当を受ける際は所得税が多めに源泉徴収されています。義務はなくても確定申告した方がお得になる典型です」(山本先生)。

他には、夫婦そろって年金を受給している場合などで受けられる配偶者特別控除があります。


配偶者特別控除について

夫婦で年金受給中の例

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夫(67歳) 年金収入380万円
妻(66歳) 年金収入210万円

何もしない場合
夫婦ともに年金を受給していますが、いずれも400万円以下のため確定申告の義務はありません。配偶者の所得が48万円以下の場合に受けられる配偶者控除という制度がありますが、妻にそれを超える収入があり適用されないため、確定申告を行っていません。

→特に控除なし

配偶者特別控除を使うと

公的年金受給者には公的年金控除(110万円)の制度があり、その控除後の妻の所得は100万円。その場合、下の表に沿って配偶者特別控除の対象になることが分かります。夫の所得は900万円以下なので、自分の所得から36万円の配偶者特別控除を受けられ、その分の税金がお得になります。

→夫は36万円の控除

配偶者特別控除の控除額

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上の図のように、公的年金控除後の配偶者の所得が133万円以下の場合は配偶者特別控除の対象になるよう2018年に制度が改正されました。

「上の図のような夫婦の場合だと、確定申告を行えば夫は妻を配偶者特別控除の対象として36万円の所得控除が可能になるのです。制度が変わって間もないため、これも見落とされがちです」(山本先生)

ただ、初めて確定申告を行う場合は何をどのようにしていいのかがよく分からない、という人もいるかもしれません。

「その場合は、市区町村や税理士会が行っている税の無料相談を利用するのがいいと思います。相談の際は、保険料の証明書や株の計算書など、用意できる資料は全てそろえて持っていくようにしましょう」と、山本先生。

さらに「税の還付を受ける場合は、5年間さかのぼって『更正』できます。

今回時間がなければ、落ち着いてから準備してもいいのです」と続けます。

税金が還付されてお得なら、確定申告に対するやる気が湧いてきますね。

取材・文/仁井慎治 イラスト/やまだやすこ

 

<教えてくれた人>

山本宏税理士事務所 所長 税理士
山本 宏(やまもと・ひろし)先生
1968年生まれ。95年11月税理士登録。中小企業、個人事業主や不動産オーナー向けの税務申告、会計指導などに加え、『年金生活者・定年退職者のための確定申告』(技術評論社)シリーズの監修も行う。

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この記事は『毎日が発見』2021年12月号に掲載の情報です。

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