【先週】弟の戦死に混乱するヒロインの「笑顔」に鳥肌...衝撃的な「戦争の表現」と「幻の反戦歌」
毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「ヒロインの恋」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
趣里主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』の第11週「ワテより十も下や」が放送された。
今週はスズ子(趣里)の恋が描かれた。朝ドラの良いところと良くないところがそれぞれに凝縮されている感のある、ある種非常に朝ドラらしい本作において、今週は良くないところが目立った印象を個人的には抱いた。
地方巡業を続ける「福来スズ子とその楽団」が愛知の劇場を訪ねると、スズ子のファンだといって興業主に連れられて学生・愛助(水上恒司)がやって来る。スズ子はふとその姿に戦死した弟・六郎(黒崎煌代)を重ねるのだった。
しかし、小夜(富田望生)がお金をなくし、その犯人として愛助を疑ったことから騒動に。スズ子は小夜の非礼を詫びて食事に誘う。帰りの汽車で再びスズ子たちは愛助と遭遇し、少女に歌を聴かせるスズ子の歌声に愛助はますます惹かれていく。さらに、スズ子らが神戸公演の帰りに久しぶりに梅丸少女歌劇団(USK)やはな湯を訪ねた後、東京に戻ると、愛助が下宿先まで来ていた。ほぼストーカー状態の情熱である。
エンタメ界隈の闇と「推し活」の危うさが次々に明るみに出た2023年現在において、これは少々間が悪い展開だが、蓄音機を聞きに来ないかと愛助に誘われたスズ子は、小夜と共に愛助の下宿を訪ねる。
愛助の部屋にはスズ子のレコードや資料などが溢れ返っており、スズ子と小夜はそれをゴミ扱いし、強引に掃除する。推しの目の前で本人のレコードを流そうとしたり、推しの批評記事を読み、自分も同意見であると熱弁をふるったりするオタクの愛助。その姿は可愛らしくはあるものの、いくらスズ子が「義理と人情」「お節介」の人だとしても、「男のオタク趣味を理解せずに女が部屋を掃除する」描写はあまり愉快ではない。
スズ子が愛助に心を開いていく中、2人の前に立ちはだかるのが、愛助の実家の家業・村山興業東京支社長の坂口(黒田有)。2人の年齢差が9歳であること、村山興業の跡取りと歌手の恋愛はあり得ないことなどを指摘し、猛反対するが、それはむしろ2人の愛の火を燃やす燃料となっていく。展開的には非常にわかりやすく、ベタだ。
ところで、今週視聴者をザワつかせたのは、小夜のキャラクター。常にスズ子の周囲にいて、「~だっぺ」というわかりやすい"田舎もん言葉"で喋り、他者に敵意むき出しで顔を歪め、愛助を泥棒扱いする。それが結果的に2人の距離を近づけることになったとはいえ、良かったねとは言いにくい。なぜなら、2人を近づけるための「道具」として小夜のドジも悪意も使われ、そこに尊厳がないからだ。
朝ドラでは昔からこの手の、ヒロインを引き立てるための記号的な「田舎もん」を配置しがちだ。そんなお約束に視聴者も慣れているからこそ、コテコテの記号的キャラが物語を盛り上げることに役立つのであれば、それはそれと解釈する人も多いだろう。
しかし、小夜は登場時、『ガラスの仮面』で卑怯な手段を用いて主人公・マヤを陥れ、そのポジションを奪う「乙部のりえ」に重ねて見られていた。そこから、策略家ではないらしいことがわかると、六郎の死の前後で一瞬「良い子」と言われ(※スズ子や梅吉に寄り添っていたが、そもそもそこまでの絆が梅吉・スズ子との間でいつ育まれたのかは謎だった)、今週は盛大に視聴者を苛立たせた。
富田望生が達者な役者だということは、ほぼ誰でも知っている。その達者さ頼みでベタベタなキャラとベタベタな芝居をさせることに、いやに既視感があると思ったら、広瀬すず主演の『なつぞら』だった。ちなみに今週の演出家は朝ドラ『なつぞら』チームだった人。ああ、やっぱり......と思ってしまいそうだが、『カムカムエヴリバディ』やNHKドラマ『伝説のお母さん』などのチームにいた人でもある。
モヤモヤする部分が多かった今週だが、相変わらず『ブギウギ』絶賛の声は多く、特に身近な中高年の男性編集者たちからは『ブギウギ』の話ばかりされる今日この頃。そう思うと、今週は朝ドラが求められる要素の一つ「わかりやすさ」に振り切った週だったのかもしれない。