毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「あの設定、どこ行った?問題」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第25週「未来を信じて」が放送された。
今週は舞(福原)が「なにわバードマン」の先輩・刈谷(高杉真宙)と玉本(細川岳)の会社「ABIKILU」が取り組む電動小型飛行機「空飛ぶクルマ」に夢中になる一方、短歌が詠めなくなり、苦しむ貴司(赤楚衛二)の対比が描かれた。
ラスト2週の時点でまだ新たな苦悩が生まれる展開は、朝ドラではままあること。
しかし、気になるのはところどころに散りばめられた「あの設定、どこ行った?」問題だ。
「こんねくと」は笠巻(古舘寛治)を講師とし、子どもたちへの技術教室を定期的に行っているほか、刈谷たちにカーボンを扱う工場を紹介、貴司の後押しもあり、「ABIKILU」と提携することになる。
そこから投資家を探す中、元なにわバードマンの渥美(松尾鯉太郎)も刈谷たちを手伝うことになり、投資家へのプレゼンに向けて開発が急ピッチで進められ、『テストフライトが成功。
投資してもらえることが決まる。
サクサク進むスピーディーな展開はプロットそのままを出した印象だが、「こんねくと」はどのように給料を得ているのか。
ABIKILUが東大阪の工場を巻き込む大掛かりな事業になり、投資してもらえることになったとはいえ、それはあくまで「事業資金」の話で、他にも同時進行している仕事があるとはいえ、舞と御園(山口紗弥加)の給料がどのように捻出されているのかは謎だ。
描かれていないだけで、公的資金がザクザク入ってきているのか。
仲介手数料、いわば「中抜き」のみで順風満帆というと、なかなか阿漕な商売にも見えてくる。
しかも、全く忙しそうに見えないのに、アルバイトを雇うという。
応募者の名前が「空」「海」「陸花」......これを視聴者が喜ぶと思ったのだろうか。
ともあれ、舞の仕事が順調に進む一方、貴司は苦悩の末に短歌を辞めようと思っていることを舞に打ち明ける。
舞と歩と一緒にいる幸せで十分、短歌から離れたいと言う貴司に、舞は時間をおいてみるよう提案する。
しかし、もう十分考えたと貴司は言う。
貴司が短歌を詠めずに苦しんでいることに、祥子ばんば(高畑淳子)は気づいていたのに、ここまで追い詰められた状況でもなお、舞は本人に言われるまで気づかなかったのか。
「人の気持ちを察するのが上手い」「常に後方確認する」舞はいったいどこに行ってしまったのか。
誰より気遣い屋の貴司が上手に隠していたこともあるだろうし、祥子の言う「どっだけ一緒におってもわからんことやあるとよ」も事実だろう。
それにしても、デラシネの元店長・八木(又吉直樹)がパリにいることを知り、貴司のパリ行きを後押しした舞のその後の爽やかさには唖然とした。
夫の異変に気付けなかった自分を責め続け、仕事に支障が出るかと思いきや、夫をさっさと送り出した後にはニコニコ笑顔でABIKULUにタコ焼きを差し入れる舞。
「何度も後方確認」する舞も、目の前から問題が消えれば「後方」を忘れるのか。
また、貴司が去った後、デラシネの店番を祥子がしてくれることになるが、この展開は一見良い話のようで、問題を可視化させてもいる。
第24週では祥子が五島から東大阪に越してきて、デラシネで調達した本を読んだりジャム作りをしたりすることから、尊厳を取り戻して来た様子が描かれていた。
しかし、あれから1年経っても、祥子は家の中でただ一人過ごしていただけだったのか。
めぐみは口では立派なことを言いつつ、特に介護をしている様子もなく、麻痺があるにもかかわらず、通所リハビリもデイサービスも受けさせていない。
「老親を引き取り、一緒に暮らすこと=面倒見ること、介護」ではないというのに。
あれだけ自分のことは何でも自分でやり、船の仕事も忙しくしていた祥子が、家族としか会わず、家にこもりきりの生活では、認知症リスクも高まることだろう。
祥子が放置されたままという状況が非常に気になる。
そして1年経っても引き継ぎが終わっていないIWAKURAも心配だ。
残るは1週。
いろんな「あの設定、どこ行った?」は果たして無事回収されるのだろうか。