【舞いあがれ!】希望溢れる最終回。「恵まれたヒロイン」で終わらなかった舞ちゃんの「強さ」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「ヒロインの強さ」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】私たちの舞ちゃんはどこへ...最終週を目前に「あの設定、どこ行った?」問題が発生中

【舞いあがれ!】希望溢れる最終回。「恵まれたヒロイン」で終わらなかった舞ちゃんの「強さ」 pixta_88176782_S.jpg

福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の最終週である第26週「私たちの翼」が放送された。

五島のばらもん凧から始まり、父・浩太(高橋克典)を励ますために飛ばした模型飛行機、「なにわバードマン」での人力飛行機パイロット、旅客機パイロット、浩太の死後、IWAKURAを母・めぐみ(永作博美)と共に引き継いだ舞(福原)は、最終的に浩太の夢であるIWAKURAのネジを航空機に載せて電動小型飛行機「空飛ぶクルマ」のパイロットとして空高く舞いあがった。

正直、後半になると、パイロットの資格があって、投資家の兄(悠人/横山裕)がいて、大きなIWAKURAという親会社があって、どこで勉強したのか不明だが、なぜか工業デザインもできて、ブログなどで「発信」する言葉の力も得て、妊娠・出産・子育ての苦労は全然なく、何でもこなせてしまう舞の「万能感」が際立つ印象はあった。

おそらく大学や航空学校に行かせてくれる太い実家がなく、子どもの面倒を見てくれる親や祖母もいない核家族で、生活費の心配をせず夫をパリに行かせるなんて夢のまた夢で、自分の夢どころか、日々「食べること」「生きること」に必死で汲汲としている、貧困化が進む日本の多くの視聴者にとっては、正直眩しすぎて、羨ましすぎる部分はあったろう。

誰かの夢や、それを実現していく様は、周囲に希望を与える半面、現実との乖離により、苦しさ・虚しさを再確認させることもある。

駆け落ち同然で大学を中退したとはいえ、何でもできる子だった母と、エリートサラリーマンだった父との間に生まれ、恵まれた能力と家庭環境から培われた「地道な努力」を幼い頃から標準装備してきた舞に、「親ガチャ」という言葉が浮かんだ人もいるかもしれない。

第22週で舞に悪態をつく金網業者・小堺(三谷昌登)は、そうした多くの人々の代弁者のようでもあった。
オープンファクトリーの成功を東大阪の工場の2代目社長たちと共に喜ぶ舞に、「スクラム組めるのは体力あるとこだけ」「声あげる余裕なんかない」「自分らが町工場の代表みたいな顔すんなよ」と言った小堺。

金網を使った新製品を作らないかと提案されても、「下請けだけでやってきた」「自社製品を企画したり売り込んだり、考えただけで気ぃ遠なるわ」と最初は聞く耳を持たなかった。

しかし、忘れてはいけないのは、舞が単に「持てるヒロイン」ではないということ。
そもそも幼い頃には、心因性の発熱に悩み、環境を変えるために五島で一時暮らしたほど繊細な子だったわけだし、リーマンショックで航空会社の内定が延期されたり、父の会社がリーマンショックで経営危機に陥り、さらに父が急死したりという苦難に遭い、内定を断り、IWAKURAを母と共に支えることを選び、自身の夢を諦めたこともあった。

しかし、そこからIWAKURAの営業のトップになり、さらに東大阪の町工場と人をつなぐ会社「こんねくと」を起業、「なにわバードマン」の先輩たちの会社と業務提携し、空飛ぶクルマの開発に携わり、パイロットになった。

どん底からの浮上が順調で、詳細が描かれていなかったために、舞の万能感が後半は強まったが、そもそも舞が小堺に悪態をつかれ、そこで腹を立てないばかりか、その苦しみを「他人事」としなかったことが、舞の新たな道を開拓する第一歩となったのだ。

言ってみれば、小堺はある種の殊勲者だ。

舞の凄さは、一つの夢に執着するのではなく、「挫折」にもまた固執せず、歯を食いしばって必死の形相で立ち上がるのではなく、柔軟に次の目標を見つけていける軽やかさ。

自身に向けられた憎悪からも「気づき」を得て、次の力に変えていくたくましさだ。

今週最も胸を打たれたのは、かつて船の仕事で、迎えの時間を忘れてしまった祥子ばんば(高畑淳子)の「失敗」に"激おこ"だった客が、歳をとって「常連客」として登場するくだり。

失敗はいくらでもリカバリーできるし、そこから新しい関係性を構築するチャンスにもなるのだと考えさせられる。

結果、貴司はコロナ禍で会えない日々を経て、自身の「言葉」を取り戻し、戻って来るし、ばんばは高齢+車椅子でも、有人飛行のお披露目第一号乗客という大胆なチャレンジを受け入れるほどに肝が据わっている。

「何度も後方確認する」慎重なヒロインという設定がどこに行ったのかはいまひとつわからないが、舞の軽やかさや気持ちの切り替えの上手さ、前向きさ、芯の強さは、周りをも常に元気にしてくれていたのだ。

これまでの経験や人脈を生かし、人と人、五島と東大阪をつなぎ、コロナ以降の未来への希望も描く、優しくあたたかなハッピーエンドだった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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