幸せな別居もある。「オンデマンド婚」という選択/大人の男と女のつきあい方

幸せな別居もある。「オンデマンド婚」という選択/大人の男と女のつきあい方 pixta_38438724_S.jpg40歳を過ぎ、しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実。しかし、年齢を重ねても、たとえ結婚していても異性と付き合うことで人間は磨かれる、と著者は考えます。

本書『大人の「男と女」のつきあい方』で、成熟した大人の男と女が品格を忘れず愉しくつきあうための知恵を学びませんか?

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「オンデマンド婚」という新しい結婚形態もある

「亭主元気で留守がいい」
どんなに情熱的な恋愛の末に結ばれた夫婦でも、長年一緒に暮らしていればつきあい方は変わってくる。妻が夫のいない時間に羽を伸ばして、のんびりしたいという気持ちはわかる。
夫とて、気持ちは同じ。お祝い事や仏事、クラス会など理由はさまざまだが、妻が一人で里帰りする日を待つ心境もよくわかる。

こういう心理は、何も愛情がなくなったから生まれるわけではない。愛情や信頼とは別に、ときには一人の時間を過ごしたいと思うのは無理からぬことだ。男の立場でいえば、ふだんは浮気の虫を抑えるのに苦労しているのに、そんな虫も妻が不在のときには不思議とおとなしくなったりするものだ。
いつも顔をつき合わせて暮らす夫婦にとって「一時的なオフ」は、マンネリ解消には必要である。

こんな標準的な夫婦関係とはまったく別の考え方で、最初から「夫婦は一緒に住むのが当たり前」という常識を否定するカップルが最近、増えている。名づけて「オンデマンド婚」だそうである。いわゆる「別居婚」だ。オンデマンドとはネットの世界では一般的だが、要は利用者が自分の見たい映画を見たいときに視聴できる方式をいう。そこから転じて、一緒にいたいとき、一緒にいられるときだけ生活をともにする結婚形態をいう。

オンデマンド婚の背景には、さまざまな理由がある。
ともに仕事を持っていて、生活パターンを合わせられないため、最初から納得ずくで一緒に住まないことを前提に結婚するケース。
遠距離恋愛の末に結婚したものの、ともにこれまでの仕事のスタイルを変えたり、転職する意志がないために同居を求めないケース。
また、核家族化の影響で夫と妻のそれぞれが、単独では生活が困難な年老いた親の面倒を見なければならないケースもある。

つい最近、まさしくオンデマンド婚を実践している30代半ばの女性の話を聞く機会があった。

彼女はゲームソフト開発会社に勤めている。ゲームソフトの開発は驚くほど短期集中型の作業が一般的で、一本のソフトを完成させるために一カ月近くも会社に缶詰め状態になることも珍しくはない。その間、会社の近所に借りたマンションはいわば仮眠場所と化す。その代わり、一本のソフト開発が終われば一カ月以上の休みがとれるのだという。

一方、結婚相手の彼は救急病院の勤務医。こちらも、不眠不休は当たり前で緊急の呼び出しは日常茶飯事。彼もまたマンションでの一人暮らしである。
こういう組み合わせでは、一般的な家庭生活を送ることはむずかしい。そこで、双方話し合ってオンデマンド婚を選択したのだという。

説明を聞いて私も一応は理解できたが、いちばん肝心なことが腑に落ちない。
それをぶつけてみた。
「なぜ、結婚したの?」
「やっぱり『夫婦』になりたかったんです」単純明快な答えだった。そして、こう続けた。
「もともと、私が過労で倒れて救急車で運ばれた病院の医師が彼だったんです。診(み)てもらっているうちに、なぜだか、とにかくこの人と結婚すると決めてしまったんです。彼も同じ気持ちになったみたいで......」

私の経験からいっても、この二人のように何かのきっかけがなければ、結婚の決意はできないものだ。この二人の場合、結婚ははずみで決意したが、自分の仕事への愛着と情熱は、そう簡単に断ち切れるものではなかったということのようだ。必然的にオンデマンド婚になったわけである。

一見すると恋人関係のようであっても、きちんと結婚という形式をとることによって、精神的な安定が得られるのであれば、その形態は当事者の好みでいいと恩う。
若い頃の一時期、新聞記者としての仕事やその延長線上のつきあいなどで、自宅に帰るのはほとんど寝るだけだった私などは、この話を聞いて「この手があったか」と思わずにはいられなかった。

夫婦になることで、どちらか一方、あるいは双方の負担が増えたり犠牲になってしまうのでは本末転倒だ。まわりからどう思われようとも、当事者が幸せであれば、世間が考える幸せの尺度に合わせる必要などどこにもない。

社会構造の複雑化に伴い、生活パターンや個人の志向、興味、主義主張もまた多様化している。当然、夫婦のあり方もどんどん変化する。夫婦の間でコンセンサスが得られれば、このオンデマンド婚も幸福結婚の方法として一考の価値はある。

 

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川北義則(かわきた・よしのり)
1935年大阪生まれ。1958年慶應義塾大学経済学部卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。文化部長、出版部長を歴任。1977年に退社し、日本クリエート社を設立する。現在、出版プロデューサーとして活躍するとともに、エッセイスト・評論家として、新聞や雑誌などに執筆。講演なども精力的に行なっている。主な著書に『遊びの品格』(KADOKAWA)、『40歳から伸びる人、40歳で止まる人』『男の品格』『人間関係のしきたり』(以上、PHP研究所)など。

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『大人の「男と女」のつきあい方』
(川北義則 / KADOKAWA)
「年齢を重ねても、たとえ結婚していたとしても、異性と付き合うことによって、人間は磨かれる」というのが著者の考え。しかし、40歳を過ぎてから、 しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実です。 本書は、成熟した大人の男と女が品格を忘れず、愉しくつきあうための知恵を紹介。 いつまでも色気のある男は、仕事も人生もうまくいく!

 
この記事は書籍『大人の「男と女」のつきあい方』からの抜粋です

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