どんなに相手を愛していても「愛の一方通行」はいつか破たんする/大人の男と女のつきあい方

どんなに相手を愛していても「愛の一方通行」はいつか破たんする/大人の男と女のつきあい方 pixta_28421554_S.jpg40歳を過ぎ、しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実。しかし、年齢を重ねても、たとえ結婚していても異性と付き合うことで人間は磨かれる、と著者は考えます。

本書『大人の「男と女」のつきあい方』で、成熟した大人の男と女が品格を忘れず愉しくつきあうための知恵を学びませんか?

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「愛の一方通行」はどこかで破綻する

離婚の危機に瀕(ひん)していた男性がいた。離婚など、いまどき珍しくもないのだが、彼のケースはちょっと変わっていた。

彼とのつきあいの始まりは10年ほど前になる。取引のある証券会社の新入社員として私の前に現れた。長く担当してくれた営業マンが転勤になったため、その後任として挨拶(あいさつ)に来たのである。

有名私立大学の経済学部を卒業したばかりだった。文武両道の男である。高校時代、野球で甲子園大会に出場したこともあるが、その大学にはスポーツ推薦ではなく一般人試で入学した。人学後も選手として活躍し、四年生のときには主将も務めた。
身長一八五センチはあるだろう。胸板は厚く、脚も長い。鍛え抜かれた体だけにスーツも似合う。おまけに日本人とは思えぬほど彫りの深い顔の持ち主で、男の私から見ても、かなりハンサムである。そんな彼が沈痛な面持ちで相談に来た。

一年ほど前のことだ。
「妻から、しばらく別々に暮らさないかといわれたんです。ほかに好きな男ができた、というわけではないんですが......」

詳しく聞いてみた。
彼は、彼女にはじめて会ったときから「この人しかいない」と心に決めて、猛烈にアタックした。一年間のつきあいでも尽くしに尽くした。彼女の両親も非の打ちどころのない彼にゾッコンで、強力に後押ししてくれた。

その甲斐あって、彼女は彼のプロポーズを受け入れた。挙式のとき、新郎の彼は感極まって号泣したそうである。
入社以来、八年間がんばって貯めたお金と親からの援助でマンションも買った。犬好きの彼女の願いを聞き入れて小型犬のポメラニアンも飼った。共働きだが、朝が弱い彼女に代わって朝食もつくった。掃除、洗濯も六対四で彼の負担率が高い。休みになれば彼女の実家にもマメに顔を出す。

惚(ほ)れた弱みといってしまえばそれまでだが、至れり尽くせりで新婚の奥さんに接してきた。ハンサムで真面目(まじめ)で献身的となれば、ふつうはこういう夫に感謝して恩返し、といきたいところだが、彼女はそうではなかった。

最初は蜜月だったのだが、結婚後半年くらいして彼女の様子に変化が表れた。

「朝ごはん、できてるよ」
「食欲ないの」
「たまには映画でも見に行こうか」
「疲れているから、家で寝てる」

セックスもする。大喧嘩(おおげんか)をするわけでもない。決定的な争いが生じるわけではないのだが、二人の会話に微妙な変化が表れた。そして「しばらく別々に暮らさない?」という彼女からの提案があったのだという。
私はこの話を聞いて、残念だが彼の結婚は終わるだろうなと直感した。彼女はもともと彼を愛してはいなかったのだ。これからもその気持ちは変わらないと思ったからである。

世の中には、こうした「愛の一方通行」の悲劇がある。どんなに片方が相手を愛していても、もう片方が異性としての愛情を感じなければ、二人の関係は長続きしない。はじめのうちは、どちらかの一方通行であったとしても、相手の愛情を受け止めて互いに愛し合えるようになることも少なくない。「情に絆(ほだ)される」という関係だ。

だが、彼女はそういう人間ではなかったのだろう。彼女は、愛されれば愛されるほど、尽くされれば尽くされるほど、その関係をうっとうしいと感じるタイプの女性だったのだ。たぶん、彼女にとって、愛とは能動的でなければならないのだ。花にたとえれば、自分が気に入った花を自ら手に入れることでしか、愛を感じられない。まず、自分の愛が先に生まれなければ燃えることのできない女性なのだろう。

そのことに彼女自身も気づかぬまま、彼のプロポーズを受け入れてしまったのだ。彼の強い思いを、心地いい女王様気分のまま自分も彼を愛しているとカン違いし、本当の自分の気持ちを確かめることなく結婚に応じただけなのである。

こういう関係では、いかに彼が彼女を愛し、誠実な言葉を重ね、献身的に振る舞ったとしても、残念ながら彼女の愛を得ることはむずかしい。彼女にとって、彼は「愛することのできない男性」だったということだ。

どんなに相手を愛していても、自分が本当に愛されていない関係なら、結婚はしないほうがいい。そんな関係は、いつか必ず破綻する。

「好きな男のもっとも曖昧な言葉でさえ、好きでもない男の明白な愛の言葉よりも心をかき立てられるものである」

フランス文学の不朽の名作『クレーヴの奥方(ラファイエット夫人著)の一節である。

 

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川北義則(かわきた・よしのり)
1935年大阪生まれ。1958年慶應義塾大学経済学部卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。文化部長、出版部長を歴任。1977年に退社し、日本クリエート社を設立する。現在、出版プロデューサーとして活躍するとともに、エッセイスト・評論家として、新聞や雑誌などに執筆。講演なども精力的に行なっている。主な著書に『遊びの品格』(KADOKAWA)、『40歳から伸びる人、40歳で止まる人』『男の品格』『人間関係のしきたり』(以上、PHP研究所)など。

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『大人の「男と女」のつきあい方』
(川北義則 / KADOKAWA)
「年齢を重ねても、たとえ結婚していたとしても、異性と付き合うことによって、人間は磨かれる」というのが著者の考え。しかし、40歳を過ぎてから、 しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実です。 本書は、成熟した大人の男と女が品格を忘れず、愉しくつきあうための知恵を紹介。 いつまでも色気のある男は、仕事も人生もうまくいく!

 
この記事は書籍『大人の「男と女」のつきあい方』からの抜粋です

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