40歳を過ぎ、しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実。しかし、年齢を重ねても、たとえ結婚していても異性と付き合うことで人間は磨かれる、と著者は考えます。
本書『大人の「男と女」のつきあい方』で、成熟した大人の男と女が品格を忘れず愉しくつきあうための知恵を学びませんか?
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女性を酔わせるお世辞の使い方
数年前、ハワイを訪れたときのことだ。
宿泊したヒルトンハワイアンビレッジの敷地内には、ホテルが所有しているプライベートビーチがある。沖の部分はテトラポッドで波止めがされており、子どもや高齢の人でも安心して泳ぐことができる。
浜辺でビーチチェアに腰を下ろし、トロピカルフルーツのジュースでも飲みながら、のんびり読書をするのも悪くはないが、常夏の島に降り注ぐ日差しは、アロハシャツ越しであっても、体にはかなりきつい。
「せっかくハワイまで来たんだから」
ふだんなら海になど人らない私だが、こういう機会ならと思い、浮き輪を携え海へと入ってみることにした。
泳ぎ出してみると、どうしてどうしてなかなか気持ちがいい。浮き輪もあるし、水温も高いので体への負担もない。波の抵抗もほとんどないから楽に泳ぐことができる。気がついてみると、ビーチの先端にあるテトラポッドの間近だった。テトラポッドに目をやると、一人の白人女性が立っていた。太陽が彼女の背中から降り注ぎ、立ち姿が妙に神秘的に見えた。私の位置からはちょうど逆光になっていたことも原因だろう。
しばらくしてテトラポッドにたどり着いた私は、彼女を見上げ、思わずこう語りかけた。
「Are you a Venus?」
私の問いかけに彼女はにつこりと微笑んで、首を横に振った。だが、テトラポッドに上がった私はすぐに後悔した。そこに立っていたのは妙齢ではなく、どう見ても私とそれほど年齢の変わらない女性だったのだ。
「はじめまして、日本人ですか?私はロシアから来たの。よろしく」
ヴィーナスといわれたのが、よほどうれしかったのか、彼女は矢継ぎ早に質問してきた。問われるまま、仕事がもの書き関係だと答えると、彼女のテンションはますます上がった。
「私も読書は大好きよ。ストルガッキーやアクーニンの作品をよく読むの。そうなんて素晴らしい仕事なの。今日はとても素晴らしい日だわ!」
すべてをヒアリングすることはできなかったが、おおむねこんなことを語っていた。おまけに一緒にディナーをしないかとまで誘われてしまった。
帰国後、知り合いの女性に土産話の一つとして、この話をしてみた。
「そんなこと当たり前ですよ。何しろ『女は死ぬまで女』っていいますからね。自立できなくなった男性は男じゃなくなりますけど、女はいつだってきれいでいたい。褒めてもらいたい。ステキな恋をしたいと思うものですよ。私だってそんなことをいわれたら、お世辞とわかっていても舞い上がっちゃいますよ」
とお世辞を褒められた。このロシア人にかぎらず、すべての女性は誰もが、死ぬまで女として見てもらいたいという願望があるのは事実だ。
年をとればとるほど、外出する際の身支度に要する時間は増えるようになるが、それもまだまだ枯れていないことの表れである。
「誰も見てやしないのに」
多くの男はこう思うのだが、当の本人からすれば、そんなことは関係ない。なぜなら女性は、誰かに見られるのを気にしているのではなく、誰に見られてもいいように、男があきれるほど時間をかけて、服を選び化粧をするのだ。これはこれで素晴らしいことではないか。
以前、70歳の女性が美容外科で脂肪吸引手術を受けて死亡するという事故も起きており、美容整形がらみのトラプルは、さまざまな面で問題になっている。それもこれもすべては、たとえいくつになっても、自分を女性として認めてもらいたいという思いが根底にあるからだろう。
「相変わらず、おきれいですね」
この言葉を使いこなせる男になってみてはいかがだろうか。これだけで、仕事で、趣味で、プライベートで、ずいぶんと得をしている人は多いようだ。私もたまに使ってみるのだが、人間関係が良好になることはあっても、決してマイナスに働くことはない。とくに相手が年配であるほど効果を発揮する。
「お世辞だというのは百も承知」
そうは思っていても、やはり、うれしいものはうれしいのである。
もっと日本の男は女性を褒める訓練をすべきだろう。たとえ相手が妻であっても、である。
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1935年大阪生まれ。1958年慶應義塾大学経済学部卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。文化部長、出版部長を歴任。1977年に退社し、日本クリエート社を設立する。現在、出版プロデューサーとして活躍するとともに、エッセイスト・評論家として、新聞や雑誌などに執筆。講演なども精力的に行なっている。主な著書に『遊びの品格』(KADOKAWA)、『40歳から伸びる人、40歳で止まる人』『男の品格』『人間関係のしきたり』(以上、PHP研究所)など。
(川北義則 / KADOKAWA)
「年齢を重ねても、たとえ結婚していたとしても、異性と付き合うことによって、人間は磨かれる」というのが著者の考え。しかし、40歳を過ぎてから、 しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実です。 本書は、成熟した大人の男と女が品格を忘れず、愉しくつきあうための知恵を紹介。 いつまでも色気のある男は、仕事も人生もうまくいく!