「どんな風に話すかで人生は変わる」と言うのは、全国で多数の講演を行う人材育成のプロ・永松茂久さん。そんな永松さんが会話のノウハウをまとめた著書『人は話し方が9割』(すばる舎)から、「好印象を与える会話のコツ」を抜粋してお届けします。
自分のことばかり話しすぎてはいませんか?
数年前にあった、講演会終了後のとある懇親会での話です。
ドリンク片手に私のところへやって来るなり、ものすごい勢いで話し始めた男性がいました。
彼は自分が保険会社の営業マンであること、そして、永松茂久の熱烈なファンであること、さらに、私の本と講演会でどれだけ勇気づけられ救われたかを、延々15分ほど話してくれました。
講演を生業の1つとしている身として、ファンの存在はかけがえのないものです。
わざわざ私の元へやってきて、熱っぽく話をしてくれたことは本当に嬉しかったですし、心から「ありがとう」と思いながら聞いていました。
しかし、1つだけ、気になったことがありました。
ひとしきり自分のことを話し終えた彼は、今度は自分の仕事について話を始めたのです。
保険会社の営業マンとして勉強を重ね、日々、努力していること。
こんな方法や、あんな方法、色々試していること......。
あまりに彼が熱心なので、私はなかなか話を止めることができず、ただひたすら聞いていました。
彼がひと呼吸おいたタイミングで、やっと「で、仕事はどうなの? 売れてる?」と聞いてみました。
すると彼は一瞬、沈黙しました。
そして、私の問いに答えないまま、再び仕事の話を始めてしまったのです。
そこからは、保険の細かい種別や選び方など、どんどん話がマニアックになっていきました。
さすがの私もたまりかね、「あのね、ちょっと質問してもいいかな?」と待ったをかけました。
しかし彼は、「ちょっと待ってください。ここまで話させてください」と私を制して、なおも話を続けます。
そんな中、私が彼について思ったこと、それは、「おそらく彼は誰に対しても、こんな感じで話しているんだろうな」ということでした。
時間にして数十分過ぎた頃でしょうか。
彼はようやく満足したと見えて、「ありがとうございました! いいお話が聞けました。最後、何かアドバイスがあったらください!」と言いました。
せっかく私の本を読んで、講演会、懇親会にまで足を運んでくださったファンの方です。
私は正直に言いました。
「自分の話したいことを2割に抑えて、とにかくお客さんがあなたに何を求めているのかをしっかりとヒヤリングするスタイルに変えたら、売上が倍になりますよ。あなたはとても情熱家ですから」
「聞き役」に徹すると売上が5倍に増えた
その後半年ほどして、その会場の隣の市で講演する機会がありました。
「あの時の彼は、来ているかな。来てくれたらその後の話を聞きたいな」と思っていたら、嬉しいことに、その日も彼は一番前の席で私の話を聞いてくれていました。
そして懇親会。
彼も参加してくれていました。
そこでまず驚いたのは、見た目や雰囲気が大きく変わっていたことでした。
最初に会った時の押しの強そうな威圧的な雰囲気から、口角が上がって目尻の下がった、何とも親しみやすい顔つきに変わっていたのです。
話を聞いてさらに驚きました。
半年間で、なんと、営業成績が5倍に伸びたというのです。
その間、彼が試みたのは、私のアドバイス通り、人の話に耳を傾けるようにしたこと、それだけでした。
彼はしみじみ私にこう言いました。
「永松さん、あのアドバイスの翌日から、私はスタイルをすべて変えました。とにかくお客さんが困っていることは何だろう、どんな風にお役に立てるんだろう、そこだけに集中してお客さんのヒヤリングを始めたんです」
「すごいですね、即実践の方なんですね」
「はい、実は前回お会いした時、売上があまりにも上がらなくて、転職を考えていました。しかし永松さんのアドバイス通りにやると、どんどん成績が伸びました。自分がいかに見当違いな営業をやっていたかを痛いほど思い知らされました。おかげさまで順調です。先日表彰もされました。本当にありがとうございます」と言って、スッと席を立ちました。
その懇親会の間中、私は遠目で彼をウォッチしていたのですが、ずっと笑顔で人の話をうなずきながら聞いていました。
すべては、「聞くこと」から始まります。
彼は、たった1つ、「聞く」ということをしていなかったがために伸び悩み、そしてたった1つ、「聞く」ということをしただけで、大きく飛躍できたのでした。
私は彼を通じて、「話を聞くこと」の重要性をあらためて、実感したのです。
【最初から読む】「否定しない空間」を作れば誰でも上手に話せる
人を動かす、会いたいと思わせる、嫌われないなど37の会話のコツを全4章で解説しています