毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今回は「サワが守ったもの」について。あなたはどのように観ましたか?
【前回】「持てる側」になったトキ(髙石あかり)の一方で...「正しい努力」を続けるサワ(円井わん)への共感と願い
※本記事にはネタバレが含まれています。

髙石あかり主演の朝ドラ『ばけばけ』第17週「ナント、イウカ。」が放送された。
経済格差により、トキ(髙石)とサワ(円井わん)の間に溝ができてしまった第16週。今週は嫌な予感がしていた。
理由は、教員採用試験の勉強をするサワが通う「白鳥倶楽部」に錦織(吉沢亮)の友人で元教師の「半分弱」庄田(濱正悟)が現れたこと。
予告で庄田がサワに「良かったら教えようか、勉強?」と声を掛ける場面を見て、瞬時にカチンと来た人もいるだろう。屈辱的な言葉にも思えるし、サワまでも男のおかげでなんとかなるパターンかという不安もある。
そして、件の場面。庄田はサワになぜ正規の教師になりたいのか聞き、「長屋から出るためです。(中略)おなごで教師ぐらい稼げる仕事って、ほぼないですけん」と言われると、「良かったら教えようか、勉強?」と提案。しかし、サワは「結構です」と即答。これまで自分の力だけでやってきたのだから、誰の力も借りたくないとキッパリ伝えるのだ。それこそがサワだ。
さらに、サワが賢いのは、突っぱねるだけでなく、「ありがとうございます」と感謝を伝えるところ。すると庄田は、「力を借りるんじゃなく、利用するくらいの気持ちでやったらどう?」と提案。サワの誇りを傷つけず、受け入れやすい提案をする利口者である。
一方、元気のないトキが気になるヘブンは、記者・梶谷(岩崎う大)の連載のネタとして、サワのことを提案。勉強を頑張る友達がいて、トキが応援していること、ただし、友達の名前は出さないという内容だ。本人が見たら傷つくであろう記事を良かれと思って提案するヘブンにも、「きっとおサワちゃんも喜ぶわ」というフミ(池脇千鶴)にも驚いた。豊かになるということは、こうも人を無神経に変えてしまうものなのか......。
一方、錦織が松江中学の校長になる話が進む一方で、錦織の「後釜」として松江中学の英語教師を打診されていた庄田は、その話を断る。その事情は、県知事・江藤(佐野史郎)と錦織の会話により、明らかになった。錦織は帝大も出ていないし、教員免許も持っておらず、それを庄田は知っている、と。実は、庄田は落ちると言われていた試験に全教科合格し、教員免許を取得・帝大卒業の資格もとった一方、「大磐石」と言われた錦織は試験に落ちていたのだ。
トキが初めて錦織に会ったとき、試験前でピリピリ苛立っていたことを思い出す。周囲から受かって当たり前だと思われている真面目な秀才こそ、そのプレッシャーに押しつぶされ、肝心な場面で失敗してしまうのは、ままあること。
しかし、それは錦織を知っている視聴者にはわかることで、視点を変え、事実だけ見れば、試験に合格して帝大卒の資格も得たのにそこそこの地位に甘んじている庄田に対し、試験に不合格で教員免許も持っていないのにトントン拍子で出世する錦織は、ラッキーで世渡り上手で、人生イージーモードの人に見える。この構図は、自分の力と努力で長屋を抜け出そうとしているサワと、棚ボタ的に幸せになったトキの構図とも重なる。
本来は主人公側になることの多い「自分の力で道を切り拓く人」を脇に配置し、陰口をたたかれがちな「ラッキーな人」を主人公側にして後ろめたさを背負わせる構図は珍しい。
トキが語った友人話は、名前こそ出ていないものの、「美談」として評判になり、白鳥倶楽部でも持ちきりに。白鳥倶楽部は本来、弁護士や土木技師を目指す者など、勉強を目的とする者が集まっているはずなのに、いつでも噂話ばかりで、サワ以外勉強している人をほぼ見ない。試験で乗り越えなければいけないハードルの男女格差をあらわしているのか。
ともあれ、美談として語られるトキとサワの友情について、思うところがあるのではないかと庄田はサワに本心を尋ねる。すると、サワはお互い傷を舐めあってきた1番の親友のトキが、ヘブンの登場により、"あんなこと"になってしまったと言い、それを聞いた庄田は「貧しい女性のもとに王子さまが現れて、みるみるお姫様になる」物語として、トキをシンデレラに譬える。しかし、面白くないのもわかると言いかけた庄田を遮り、サワは「嫌いとか憎いではないんです」と言い、今もおトキは好きだし応援してもらうのもありがたい、「でも、なんというか、なんというか」と口ごもる。この心情が一番理解できるのは、庄田だろう。
一方、山橋薬舗に行ったトキは、記事を読んだサワが、目の色が変わり、頑張っていると店主に聞き、有頂天になる。勉強の邪魔をしないよう声はかけず、白鳥倶楽部の場所に向かって「おサワー、頑張ってー!」と笑顔で囁き、スキップで帰るトキを見て、ちょっと不安になった視聴者もいるだろう。「小さいコミュニティの中でみんなくっつく、恋バナだらけ」と並んで、朝ドラの良くないほうの「あるある」=「登場人物がアホになるパターン」が今週はチラ見えする。
そんな中、日曜も庄田に勉強を教わるサワは、成り行きで二人だけ昼餉を共にすることに。ベラベラ身の上話をする庄田を前に、サワは気分が悪そうで、その理由を問われると、「初めてなんです、男の方とこうして食事をするのが」と打ち明ける。すると、庄田は「ワシもなんだ。女性と2人の食事が。心臓もそばと一緒に飛び出しそうで、ただただ喋って誤魔化そうと......」。初々しい2人は互いに「初めてで良かった」と安堵し、散歩へ。
そこで散歩中のトキとヘブン夫妻に遭遇。気まずそうなサワに対し、トキは無邪気に「すっごく久しぶり」とはしゃぐ。この無邪気さにイラっとする一方、子どものようなトキを見ると、切なくもなる。おトキをアホで無神経に見せていたのは、無邪気なトキに向けたサワ、そして視聴者の苛立ちに罪悪感を持たせるためか。
その後、ヘブンは、庄田とサワを家に誘う。
新聞のことをトキが謝ると、「ううん嬉しかったよ、あれのおかげでもっと頑張ろうと思えたし」とサワは含みを持たせる。トキは「知っちょる、知っちょるよ」と言い、新聞を見てサワが目の色を変えて頑張っていると山橋から聞いたことを話す。
トキとサワの雪解けは、英語で話す庄田とヘブンを横目に、聞き取れるのかとサワに聞かれたトキが「全く......"おサワちゃん"しかわからん」、「それ、私と同じだがね」(サワ)、「英語、難しくって(笑)」(トキ)の会話から。見栄をはらない、今までと変わらないトキにサワは安堵したのだろう。
さらにトキはサワと庄田の仲を探り、サワは否定、2人は恋バナで笑い合う。トキは、なみ(さとうほなみ)が来たこと、サワが1人で頑張って辛そうだけど、「あの子は自分の力であそこから出てくる、私たちと違って」と言っていたことを伝え、「ただ、1人で頑張りすぎんでええんだないかね」と伝える。
その後、庄田はトキとヘブンを訪ね、サワのことを尋ねた後、錦織に会い、夕方に正装して白鳥倶楽部に現れる。
庄田は周りに誰もいないことを確認すると、「ちょうど良かった。おサワさんに真っ先に報告したかったから」と言い、県知事に会ってきたこと、松江中学校で英語教師をやること、錦織とも話し合ったことを明かす。
驚いたサワは、「教えちょる庄田さん、かっこええですけん。ええと思います」と言い、自分も頑張ると宣言。しかしそんなサワに、庄田はプロポーズ。「ワシと夫婦になろう。惚れてるんだ、おサワさんに。だから教師になることにした」と告白、来月から月25円もらえる、それでサワの家の借金を返して長屋を出ようと言うのだ。
夕暮れどき。川のむこうを見るサワをトキが訪ねて来る。「バカだよねえ私」とサワは苦笑し、言う。
「断る理由なんかこれっぽっちもなかったのに。つかめんかった、あの人の手。どげんしてもつかめんかった......好きだったのに」
サワは庄田のプロポーズを断ったのだった。トキに理由を尋ねられたサワは泣き出す。
「おトキのせいだわ。私はおトキにはなれん。おトキと同じ道は歩めん。シンデレラにはなれんけん......おトキはシンデレラなんだけん」
対するトキは「そうなんだ......ようわからんけど、ごめん。あと、ついでにもう一つごめん。こげなもん持ってきちゃった」と、その手には野花の花束が握られていた。
これは2人の間に溝が生まれた格差のシーンーーサワが川のむこうに行ったトキを訪ね、手土産として持参したものの、玄関に飾られた立派な花を見て、庭に打ち捨てた野花と呼応している。トキはサワが帰ってしまった後、捨てられていた花束に気づいたのか。
サワは結局、他人の力による幸福に手を伸ばすことができなかった。しかし、変わらぬ友情に気づくことはできた。それに何より、豊かな暮らしよりも、自身が幼い頃からずっと大切にしてきたものーー傍から見たらどうでも良い些末なことでも、自身にとってはきっと命と同じくらい大切な「誇り」「尊厳」を守ることができたのだ。サワの選んだ道を応援したい。
文/田幸和歌子




