【おむすび】ギャル仲間・ルーリー(みりちゃむ)が恋しい...「日常」を丁寧に描く本作のメリットとデメリット

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「『日常』を描くメリット・デメリット」について。あなたはどのように観ましたか?

【前回】不器用で実直な翔也(佐野勇斗)が推せる...今週の朝ドラで気になった「もう1人の男性」

※本記事にはネタバレが含まれています。

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橋本環奈主演の朝ドラ『おむすび』8週目「さよなら糸島 ただいま神戸」が放送された。

聖人(北村有起哉)は再び神戸で理髪店をするため、結(橋本)は栄養士の専門学校に行くために米田家は糸島を発ち、神戸に向かう。大阪で社会人野球をやる翔也(佐野勇斗)とは会いやすい距離感だ。

結をいつまでもフルネーム呼びするところ、律儀にスーツを着て結の両親に交際の挨拶に行くところ、「開店祝い」としていつも通り実家のいちごを持ってくるところなど、翔也という人物像の解像度はなかなか高く、すでに安定感すらある。しかし、野球のことしか頭になかった野球バカぶりから、早速、野球以外の慣れない事務仕事で苦戦。

一方、結は初日だからと張り切って盛りメイク+ギャルファッションで専門学校に登校し、浮きまくる。この格好も、大多数が大義名分を言う自己紹介で「彼氏を支えるため」と正直に言うことも、「ギャルの掟2 他人の目は気にしない 自分の好きなことは貫け」に従ったまでだが、矢吹沙智(山本舞香)からはナメてるのかと問われ、なだめようとした病院の娘・湯上佳純(平祐奈)からも軽蔑されている。

そんな2人と結、社会人経験を経て栄養を学びに来た中年・森川(小手伸也)と、教室内である意味浮いている個性的なメンバーが同じ班になるという展開は王道だ。

衝突するメンバーたちが先生の石渡(水間ロン)に班替えを希望したところ、班全員で協力して献立を立てるという課題を出される。対象とされる人物の性別・年齢と、主菜副菜などの要素、さらに「570キロカロリー程度、原価は300円以内」といった数値まで口頭で告げられているのに、メモをとる生徒が森川のみという状況、教える側は骨が折れることだろう。

自分が全部考えると宣言した沙智は、翌日、麦ごはんが主食の献立を持ってきたが、その一方、佳純は洋風献立を披露し、言い争いに。そこで結は2人が考えた献立をミックスすることを提案。副菜は沙智の「チリコンカーン」で、汁ものは佳純の「ジュリエンヌスープ」を採用する案だが、その統一感のなさに居酒屋バイト中の森川が出汁を和風にかえ変えるなどを提案。この課題は、料理の腕前だけでなく、協調性もジャッジされるのではないかというのだ。

生徒たちが提出した献立はいずれも石渡に評価され、そのまま食材を調達し、実際に作る流れに。しかし、小松菜が品切れ、他の野菜で代用するには原価を超えるというとき、結が小松菜と風味が似ていて栄養価も近いだろうということから、特売品コーナーにあったスイスチャードを使うことを提案。この時代の神戸のスーパーにスイスチャードが特売で山積みされているというのもレアな気はするが、ともあれ、意地を張って無の顔で農業の手伝いをしていた結の日々がここで報われる。

無事、課題を終えたが、石渡は社会に出たら気の合わない人と仕事することもあるため、協調性が必要として班替えは持ち越しに。しかし、結たちは、沙智を除くメンバー3人でプリクラを撮り、距離が少し縮まる。

今週は「日常」を丁寧に描く本作のメリットとデメリットが見えた。

メリットは、「栄養士」の仕事と、栄養士になるための勉強を丁寧な取材を通して描いていること。「料理人」や「調理師の学校」と違い、「栄養士」の仕事は栄養指導や献立を立てたりして食事を通して栄養面でサポートすることと佳純は言った。それは概ね正しいが、石渡は、最低限の料理の知識がなければ栄養のサポートなどできないと言い、「包丁を研ぐのは料理の基礎中の基礎です」と断言。地道な包丁研ぎの姿が描かれる。

また、食物のだけ勉強すれば良いわけではなく、人体の構造や各臓器の機能などの解剖生理学、英語の授業などの授業風景も描写される。調理室に入る前に帽子の中に前髪含めて髪を全部入れることや、体に髪やホコリなどがついていないようコロコロで除去すること、ラメなどのキラキラメイク・つけまつ毛などは衛生面からNGであることなどもちゃんと描かれているのは誠実だ。

その一方、強い吸引力ある物語ではない分、登場人物も当初は馴染めず、時間をかけて人物像が見えてきて、愛せるようになってくるのがメリットであり、デメリットとも言える。そのため、結が専門学校の仲間たちとギスギスしている間も、ルーリー(みりちゃむ)のちょっと太いハスキーボイスの「アゲ~」が恋しくなってしまったり、ハギャレンはどうしているのかなあと思ったりしていたら、カラオケシーンで登場。

この「最初は全く愛着がないのに、徐々に気になり、徐々に好きになっていく」距離感の変化は実際の人間関係と同じで、そういう意味では毎日15分積み重ねる朝ドラだから描ける距離感でもあるだろう。

ちなみに、みりちゃむは自身のSNSで「集まろうと思ったらどこいても、いつでも集まれるんだから『バイバイ』とかいらないんよ #朝ドラおにぎり」と投稿。ここにきてのタイトル間違いの「おにぎり」投稿に、ハギャレンの仲間たちからツッコまれるという微笑ましいやり取りが見られた。それじゃ「むすびん」じゃなく「にぎりん」になってしまうではないか......。ともあれ、栄養士学校の面々がハギャレンのように愛すべき存在になっていくのはここから。その変化に期待したい。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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