山あり谷ありな人生も悪くない! 89歳の爺さんに「人生の楽しみ方」を学ぶ

年老いた時にもし、自分の人生を振り返ったら、私はどんな感想を抱くだろう。これまで歩んできた道は正直、よかったとは言いがたい。けれど、そうした人生も悪くなかったと思える自分でありたい。

藤野千夜氏が手掛けた『じい散歩』(双葉社)はそんな気持ちになる、一風変わったシニア小説。飄々としたひとりの老人から、私たちは人生の受け止め方を教わる。

※本記事はダ・ヴィンチWebからの転載です。

山あり谷ありな人生も悪くない! 89歳の爺さんに「人生の楽しみ方」を学ぶ 81jSh6f8zmL.jpg

89歳の爺さんが人生回想する「じい散歩」

明石新平は、もうすぐ89歳。散歩をし、喫茶店やレストランに寄ってはコーヒーを飲み、おいしいものを食べることが日課。ひとつ年下の妻・英子には認知症の兆しが。新平の散歩を怪しみ、浮気を疑っている。

2人の間には、アラフィフの息子が3人。息子たちはみな結婚しておらず、子どももいない。長男の孝史は高校中退後に引きこもりとなり、現在、無職。フラワーアーチストの次男・建二は男性が恋愛対象で自称・長女。三男の雄三はグラビアアイドルの撮影会を主催する会社を興したが、毎月赤字で親に何度もお金をせびっている。息子たちには、いわゆる「常識」が通じない。

だが、新平は息子たちの生き方に干渉せず、毒づきながらも「らしい人生」を見守る。息子たちがこの先、面倒を見てくれるとは期待しておらず、自分たちが死んだ後に彼らがどうなってもしょうがないとも考えている。冷酷なのではなく、自分や他者の人生をありのまま受け入れる性格なのだ。

そんな新平は散歩をする中で、これまでの人生や家族の歴史を思い返す。英子と駆け落ち同然で一緒になったことや独立して建設会社を立ち上げたという綺麗な思い出だけでなく、羽振りのいい頃に女遊びをしたことや浮気がバレた時のこと、事業をたたんだ日のことなど汚点に思えるような記憶にもじっくりと浸り、今を噛みしめる。この人生回想記を目にすると、人生の価値を考えたくなってしまう。

すべてが理想通りにいく人生は、たしかに魅力的だ。だが、理想通りにいかなかった道の先に待ち受けていた「今」は、きっとそんなに悪くない。良いことも悪いこともすべて、自分が選んだ先にあったのなら、それでいい。新平は、そんなどっしりとした人生観を読者に教えてくれる。

老いることは、どこか怖い。親しい人が亡くなったり、病に倒れたりと周囲の状況も徐々に変化していくから寂しくなり、余計に不安が募ったりもする。けれど、新平のように「どうしようもないこともある」と少し開き直り、自分の手で抱えきれない不安を手放してみると「老いることも悪くない」と思え、最後まで人生を謳歌できるのかもしれない。

本作には衝撃のラストも描かれているので、そちらもチェックしながら、ぜひ新平と共に、これまでの自分を振り返りながら、人生という道を歩み続けてほしい。色々あったけれどおもしろい人生だった、と笑って自身の生き方を振り返ることができるような年の重ね方を、私もしていきたいものだ。

文=古川諭香

 

この記事に関連する「暮らし」のキーワード

PAGE TOP