出会いは大学時代。恋愛対象ではなかった
いったい夫婦に何があったのか。
それを知るためにも、まずは出会いの頃からの話を聞くことにしよう。
「夫とは大学に入学してから知り合いました。学部は別でしたが、サークルが同じだったんです。夫はあまり社交的なタイプではないし、見た目も地味で、目立たない存在でした」
じゃあ恋愛感情は?
「まったくありませんでした。それに、その頃は付き合っていた彼がいましたから。その時の彼はみんなが羨むほどかっこよくて、私も自慢でした。だから夫は恋愛の対象にはならず、あくまで友達のひとりでしかありませんでした」
当時、夫はあなたのことをどう思っていたのだろう。
「好意はあったと思います。こう言っては何ですが、私結構もてていて、他にもそういう目を向けてくる男の子が何人かいて、それに慣れているところもあったから、特に気にしてはいませんでした」
強気の発言である。が、モテる女とはそういうものだ。もちろん皮肉も入っている。
それが、どんな展開になったのか。
「恋人とは1年ほどで別れました。ほかの大学の女の子と浮気したからです。その時に夫から初めて告白されたんですけど、やっぱりその気になれなくてお断りしました。その後、何人かの男の子と付き合いましたけど、どれもあまり長続きしなくて。そうこうしているうちに4年生になって、私は薬学部だったのですが、薬剤師の国家資格を取り、薬品会社に就職が決まりました」
順調である。
卒業時に夫から二度目の告白。それも断って...
で、夫とは?
「実は卒業時にまた告白されました。でも、やっぱり無理でした」
その時、夫はどんな反応だった?
「どんなふうっていうか......。最初からふられるのはわかってたって言われました。君のような人に、僕なんかふさわしいわけないって」
ちょっと切ないが、恋というのは努力や誠実さだけでは成就しない。残酷なほど本能的なものである。
その後はどうなったの?
「どうもこうも、会うこともないし、思い出すこともなかったです。私は仕事が面白かったし、社内の飲み会や取引先との交流会に参加して、いろんな人と知り合いました。デートに誘われたり交際を申し込まれたりして、何人かとお付き合いしました。私も若かったし、別れてもすぐ新しい人が見つかるから、学生時代の延長のような恋愛を何回かしました。30歳が目前に迫った頃、さすがにそろそろ将来のことも真剣に考えなくちゃと思い始めて、その頃、取引先の3歳年上の男性と1年ほど付き合っていたんですけど、見た目も悪くないしエリートだったし、このままこの人と結婚するんだろうなって、当たり前のように考えていました」
まあ、自然の流れだろう。
「それで、そろそろうちの両親に挨拶して欲しいって言ったんです。そしたら彼に『今はそんな気になれない』って言われました。私、びっくりしました。まさかそんなことを言われるなんて思ってもいませんでしたから。それで、その気がないならこれ以上付き合っていても無駄ねって言ったら、君がそう思うならそうなんじゃないかって返されて、それで別れることになりました」
ショックだった?
「ものすごくショックでした。今まで男の人にふられたことはなかったから、とてもプライドが傷つきました」
免疫がなかったのなら尚更だ。
「それからしばらくして、大学のサークルの同窓会があって、夫と再会したんです」
ここでようやく夫の登場である。