「彼さえいれば一生ひとりで構わない」既婚者との不倫にのめり込んだ先に

それはおめでとう。

「ありがとうございます。それから1年ほどして、大学時代のゼミのOB会で特許事務所の所長をしている先輩と出会って、事務所に来ないかって誘われたんです」

それは幸運だったね。決めたの?

「やっぱり迷いました。彼との関係が心地よかったし、こうしていられるのも同じ会社に勤めているからって思いもありました。でも、特許の仕事は前々から興味を持っていたし、資格も取ったのでお給料も上がるし、これはチャンスだとわかっていました。それで彼に話してみたんです。反対されるかと思いきや、意外なことに賛成してくれました。『自分の人生なんだから納得できる選択をして欲しい』って。もしかしたら、別れを意味しているのかなって思いました」

確かにそう聞こえないでもない。むしろ個人的には、そうあってくれればという思いもある。転職が先のない恋愛に区切りをつけられるいいきっかけになるはずだ。

「でも、彼は職場が変わったからって自分たちには何の影響もないって。むしろ、上司と部下の関係がなくなって、罪悪感が消えるって」

男にとって、本当の意味で持つべき罪悪感が別のところにあるはずだと思うが、まあ今は目を瞑っておくことにしよう。

「それで私も心が決まって、翌年の年度末に退職して、今の事務所に移りました」

転職したことで、彼との付き合いは変わった?

「何も変わりませんでした。むしろ、前よりよく会うようになったくらいです。ちょうど息子さんが全寮制の高校に進学して、それをきっかけに臨床心理士の奥さんも宿直や休日出勤もするようになって、それで月に一度くらいは週末を一緒に過ごせるようになりました」

意外な展開である。

「本当に私もびっくりでした。今までとは違う付き合いになったらやっぱり楽しいんです。だって短いけれど旅行にも行けるんですから。やっと普通の恋人同士になれたような気がしました」

普通の恋人同士。付き合い始めた時から覚悟していたと彼女は言っていたが、心の奥ではやはり普通を望んでいたわけだ。ただ、彼との付き合いがあなたの我慢によって成り立っていることは変わらないわけで、そこに不満はなかったのだろうか。

「それはないです、私が選んだ恋なんだし」

 

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※本記事は唯川恵著の書籍『男と女 恋愛の落とし前』から一部抜粋・編集しました。

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