"ますらお"には「強く堂々とした、立派な男子」の意味があります。筆者である元・陸上自衛官のぱやぱやくんは、自衛隊の教育機関にいた頃、「ますらお至上主義者」と出会い、感じました。まさに「陸上自衛隊=ますらお」であると! 恋愛模様や気合いの洗濯など、普段はなかなか知ることのできない陸上自衛官のリアルを赤裸々に描いた『陸上自衛隊ますらお日記』(KADOKAWA)。ますらお達の愛とユーモアに溢れた世界をのぞいてみませんか?
※本記事はぱやぱやくん著の書籍『陸上自衛隊ますらお日記』から一部抜粋・編集しました。
【前回】駐屯地から3LDKへ! 結婚した自衛隊員は、ついに楽園を手に入れることができる/ますらお日記
ますらお2世の誕生
ますらおに子どもが生まれるともう大変です。
一家の大黒柱としての意識が強くなり、この子が大学を卒業するまでは自衛隊で頑張ろうと思います。
なお、お子さんが生まれる前後は奥さんが実家に帰省をすることが多く、ますらおは官舎でつかの間の独身ライフを楽しむことができます。
しかし何年も誰かと共に生活してきたますらおは、一人で生活をすることに孤独感を覚えることが多く、わざわざ営内でゲームをしたり、誰かの官舎に遊びに行ったりします。
まるで両親が共働きをしている鍵っ子の放課後のようですが、ますらおはさみしがり屋なことが多いです。
そして出産を終えた奥さんが帰ってくると、新隊員教育が始まります。
奥さんがますらおに子どもの寝かしつけ方、あやし方などを教え、上手くできないと「そんなのじゃダメ!」と怒ります。
人生は学ぶことが多く、大変ですね。
そして大好きな飲み会も1次会でお開きにして帰ることになります。
「我が家の中隊長がお怒りになるから帰ります」が彼らの口癖です。
また、女性自衛官の場合は出産もあるのでさらに大変です。
もちろん産休・育休は取れ、時短勤務なども調整できますが、幼子がいる家庭は戦場。
ある方は「幼子がいる家は実戦みたいなものだから、演習よりもキツい」と言っていました。
「これから戦いが始まる」と言い残して保育園に向かう姿は、まさに勇者のように見えました。
あれはAH-1 だね! お父さん
ますらおの家に生まれると、普通の家と異なることがあります。
それは陸上自衛隊が圧倒的に身近になることです。
家が迷彩服などのリアルミリタリーグッズであふれ、官舎に住むと周りの大人はほぼ自衛官になります。
そして駐屯地の一般開放や夏祭りに行き、戦車やヘリコプターに乗ることもあります。
自衛隊マニアのおじさん達がやることを、ますらお2世達はナチュラルに行うのです。
休日になるとゴジラの映画を見て、「ほら、これがお父さんの仕事だよ」と教育されるので、一般のサラリーマン家庭の感覚が分かりません。
絵を描けば戦車やヘリコプターを描くようになりますが、右傾化した愛国少年だからというよりも、戦車やヘリコプターが日常なだけです。
駐屯地や官舎がある地方都市の小学校に進学をすると、クラスメートが自衛官の子ども達だらけになります。
そうした小学校の運動会では、父兄にますらお達が多数やってきて、会場の設営・撤収を猛烈なスピードで行います。
父兄対抗リレーや綱引きなどの競技があると、子どもそっちのけで青筋を立てて戦うますらお達を見ることができます。
運動不足のお父さんは形無しとなってしまうので、気を付けましょう。
マイホームを手に入れて迎える「ますらお黄金時代」
子どもが大きくなると、官舎に住んでいたますらおは「そろそろマイホームを買うか!」という気持ちになり、永住地を求め、住宅展示場にも足繁く通うようになります。
陸上自衛官は国家公務員という安定した職業のため、銀行はホクホク顔でお金を貸してくれますし、ハウスメーカーも「絶対に逃がしてはいけないお客さん」として手厚いサポートを受けることができます。
バランス釜や虫達の空挺降下と戦ってきた奥さんも「やっとマイホーム!」と嬉しさを隠せませんし、子ども達も「パパ! 僕の子ども部屋はあるの!?」と目をキラキラさせながら、ますらおの父に話しかけます。
ちなみに、幹部候補生学校には「この先 住宅展示場」と掲げられた看板があります。
そこにはレジャーシートのようなものを器用にテントみたいにして張った「剛健ハイム」という人類として限界ギリギリの住宅が展示されており「いいか、お前ら、訓練中はこの剛健ハイムがマイホームとなる。今から作り方を説明するから1回で覚えろ」と言われました。
そんな時代から苦労して訓練を乗り越え、出世し、結婚し、子どもにも恵まれて、いよいよ本当の住宅展示場に来られるのです。
そして、陸上自衛官は「プライベートにおけるますらお黄金時代」を迎え、「あぁ、自衛官になってよかったなぁ」としみじみと感じるのです。